桐生祥秀“ボルト超え”10秒01の衝撃=9秒台の扉開くスーパー高校生
日本歴代2位の快記録誕生
そんな予感さえ漂う衝撃が、4月29日に広島市で行われた織田記念大会(エディオンスタジアム広島)の男子100メートル予選で走った。洛南高3年生である17歳の桐生祥秀がたたき出したのは日本記録にわずか100分の1秒差と迫る日本歴代2位の10秒01。これはジュニア(20歳未満)世界タイ記録でもあり、歴代で世界一速い20歳未満の男に並んだわけだ。2008年北京五輪の男子400メートルリレー銅メダリストの朝原宣治氏は、そんな桐生のスケール感に“超スーパー高校生”との呼び名を与えた。
五輪代表選手もお手上げ「速過ぎでしょ」
ダイナミックかつ伸びやかにストライドを刻む走りもスケールの大きさを感じさせ、昨年のロンドン五輪代表の高瀬慧(富士通)や飯塚翔太(中大)を中盤から大きく引き離してしまった。ロンドン五輪の男子400メートルリレー5位メンバーの飯塚は、お手上げといった表情で「速過ぎでしょ」とうなったものだ。
さらには、ロンドン五輪の男子100メートルで日本人五輪最高の10秒07を出して準決勝に進出した山縣亮太(慶大)を破ったこと。今大会は9秒台が出るのではと、戦前から注目されていたのだが、その最有力候補は山縣だった。山縣は今季も4月上旬に強い向かい風の中で好記録を出して、9秒台に一番近い男の呼び声が高まっていた。桐生はそういう3歳上の先輩を向こうに回し、決勝の直接対決では中盤から主導権を握るとラストの争いを100分の1秒差でかわして10秒03で優勝を果たした。
つまりは、9秒台の扉をこじ開けようとする1人のスプリンターの出現があり、続く1人のスプリンターがそれに触発されて才能を開花させたというように見える現象が起きている。もちろん、2つの才能はそれぞれが個別に生まれ育ったのであり、立て続けに9秒台の可能性のある選手が登場したことは、基本的には偶然の巡り合わせであるはずだ。だが、時代が動くときというのは偶然が必然のように作用するものだし、いったんいけるという雰囲気が生まれれば9秒台に対する心理的なたがが外れて複数の選手にブレークスルーが起こることがあるかもしれない。
伊東部長は「彼らは10秒の壁は感じていないのではないかな」と言い、「今年度中に複数の選手が9秒台で走ってもおかしくないし走ってもらわなければ。そろそろリレーだけで力を発揮するのではなく、メンバーの中に 9秒台が2人、3人いる時代が来てくれればうれしいなと思う。相乗効果が隅々まで波及していけばうれしいと思う」と今後を展望した。