桐生祥秀“ボルト超え”10秒01の衝撃=9秒台の扉開くスーパー高校生

高野祐太

朝原氏も太鼓判 早熟でも心配無用

男子100メートル決勝では、山縣(左)を100分の1秒差でかわして優勝した 【写真は共同】

 9秒台と言えば日本人にとって夢の数字であり、達成できれば黄色人種初の歴史的記録ということになる。それを実現する担い手に名乗りを挙げたのが桐生なのだ。とするなら、それほどの桐生のスプリンターとしての優秀さはどこにあるのか。朝原氏が言う。
「2月の男子短距離代表合宿に初めて参加して、(所属チームでの教え子である)10秒07を持つ江里口匡史(大阪ガス)もこてんぱんにやられました。持っているエネルギーがすごく大きいと感じるし、フルに5速使ってギアチェンジできる感じです」

 そして、桐生本人は自分の強みを「中盤から後半にかけて腰が乗ったらストライドも伸びていく」ことと捉えている。
 早熟な陸上選手は、その後に飛躍できなくなる場合が少なくなく、やや気になる点ではあるが、朝原氏は心配無用との見方を示し、「スーパー高校生は卒業後に伸び悩むというパターンを覆してほしい選手だし、周囲も希望を持って見守りたい」と話す。

予想外の10秒0台に「びっくり」

 一方で、いきなりこれほどまでの成績を挙げることは、本人自身が予想していなかった。10秒01の記録を出した直後、「まさか(10秒)0台が出るとは思わなかった。まだ10秒0台にびっくりしているので、気持ちの整理がついていない」と驚きを隠せない様子だったし、伊東部長も「これだけの記録が出るまで仕上がっているとは正直思っていなかった」と振り返った。
 それほどに、急激な成長期が到来しているのだろうし、逆に言えば、現在持っている最大のパフォーマンスは、これから発揮される可能性がある。本人も、織田記念のレースでは「後半を力まずに行ったらまだタイムが出ると思う」とか「(シニアの大会初参戦で日本のトップと戦う経験が浅く、)こういう舞台にもっともっと慣れる必要があると思う」といった感覚があった。

 次の出場大会は、5月5日のセイコーゴールデングランプリ東京(国立競技場)の100メートル。9秒台を持つ外国勢と戦える貴重なチャンスを得る。「世界選手権に出られたらボルトと自分の走りを比べてみたい」と意欲を見せる逸材だけに、レベルの高い国際舞台に刺激を受けて、もしやということだってあり得る。

<了>

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著者プロフィール

1969年北海道生まれ。業界紙記者などを経てフリーライター。ノンジャンルのテーマに当たっている。スポーツでは陸上競技やテニスなど一般スポーツを中心に取材し、五輪は北京大会から。著書に、『カーリングガールズ―2010年バンクーバーへ、新生チーム青森の第一歩―』(エムジーコーポレーション)、『〈10秒00の壁〉を破れ!陸上男子100m 若きアスリートたちの挑戦(世の中への扉)』(講談社)。

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