香川真司、達成感なきプレミア王者の座=歓喜の後に紙面で高まる今後への期待

寺沢薫

大一番で得られなかった出場機会

紙面では早くも来季の香川への期待が高まっているが、ファーガソン監督は以前から「シンジはもっと良くなる」と言い続けてきた 【Man Utd via Getty Images】

 エバートンとの開幕戦で上々の評価を得て以降、慣れないサイドでの奮闘、「消えていた」という辛口評価、10月の負傷など、シーズン前半は苦しい出来事の方が多かった。それでも、現地記者たちが上記に挙げたようないくつかのゲームは、確実にイングランド・フットボール界に好印象として残っている。

 初ゴールを挙げた8月25日の第2節フラム戦(3−2)では、「彼の動き、スピード、パスが、フラムを自陣に押し込んだ(デイリーメール)」とゴール以外の部分も評価された。ケガから復帰後、なかなか復調できずにいた中、プレミアでアジア人初となるハットトリックを決めた3月2日のノーウィッチ・シティ戦(4−0)では、「歴史を作った(BBC SPORT)」と見出しが打たれ、『スカイスポーツ』はマン・オブ・ザ・マッチに香川を選んだ。それでも、その後のチャンピオンズリーグ(CL)決勝トーナメント1回戦のレアル・マドリー戦、FAカップ準々決勝チェルシー戦、マンチェスター・ダービーと大一番でほとんど出場機会をもらえず、霧は完全に晴れなかった。

ファーガソン監督「今のシンジは効果的」

 その後の3試合では一気に存在感を強めている。特に4月17日のウェストハム戦(2−2)では、ファン・ペルシーとの連係で左サイドを崩し、見事なドリブルからアシストを決めると、後半には巧みなボールタッチからシュートを放ち、ファン・ペルシーのゴールへとつなげた。難所アップトン・パークの熱狂的なファンを沈黙させ、ゴール後はチームメートがスコアラーより先に、香川へ祝福に駆け寄る場面もあった。さらに試合後、ファーガソン監督は、香川よりも先にルーニーを交代させたことをこう説明した。

「今のシンジはとても効果的だ。彼はボールを持てば非常に落ち着いており、常に気が利いたパスを選択できる。先制ゴールの動きは素晴らしかった。ルーニーを先に交代させた理由は簡単だ。彼はシンジほどうまくプレーできていなかった。通常、ルーニーはほかの大半の選手より良いプレーをしているのだが、あの夜はシンジの方が良かった」

 その舌の根も乾かぬうちに訪れたのが、今節アストン・ビラ戦での活躍だ。このゲームでも、『マンチェスター・イブニング・ニュース』は「優れたバランス感覚と視野の広さを垣間見せた」と評価。『インデペンデント』のイアン・ハーバート記者も、「日本人プレーヤーの“遅れてきた活躍”は、この春のオールド・トラフォードでひとつの話題だ。この夜も、彼は巧みで正確、そして知的なパス交換を披露した。そのベストが、ファン・ペルシーの3点目で、左のギグスを走らせたパスだった」とここ数試合の活躍も含めて称賛している。ちなみに、この記事の見出しは「Rooney remains the fans? favourite, but the future is with Kagawa(ルーニーはまだファンのお気に入り、だが未来は香川とともに)」。ルーニーの不調や移籍ゴシップを煽るためのダシに使われた感は否めないが、香川のプレーに対する評価にウソ偽りはないはずだ。

 ただ、記者たちが来季への期待を活字にする前から、ファーガソン監督は「来季のシンジはもっと良くなる」と言い続けてきた。実際、パスやボールタッチなど基本技術の高さをベースに、“使われて生きる”タイプの生命線でもある周囲の信頼が徐々に高まり、ボールがよく回るようになってきた。現在の好調ぶりは、指揮官の言葉の前兆と言えるだろう。

 優勝後、香川本人も「もっともっと結果を求めていたし、ケガもした。まだまだ達成感はない」と、らしいコメントを残した。今季残り4試合、そして来シーズンは、“準レギュラー”から“不動のレギュラー”に昇格すべく、新たな戦いが幕を開けることになる。

<了>

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著者プロフィール

1984年、東京都生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』編集部を経て、株式会社フットメディア(http://www.footmedia.jp/)在籍時にはプレミアリーグなど海外サッカー中継を中心としたテレビ番組制作に携わりながら、ライター、編集者、翻訳者として活動。ライターとしては『Number』『フットボリスタ』『ワールドサッカーキング』などに寄稿する

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