佐藤琢磨、日本人初優勝の裏側=本人も自負する完璧なレースの全貌

吉田知弘

ブラックタイヤの長所を生かした順位アップ

日本人初のインディ優勝を成し遂げた佐藤琢磨。その裏にはチームクルーの力が必要不可欠だった 【Getty Images】

 2013年のIZODインディカーシリーズ第3戦が21日、カリフォルニア州のロングビーチ市街地特設コースで決勝レースが行われ、4番手からスタートした佐藤琢磨(AJフォイトレーシング)が日本人初の同シリーズ優勝という快挙を成し遂げた。レース後のコメントで「言葉にならない、最高の気分です。今週末は完璧なレースウィークエンドで、チームも最高の仕事をしてくれました」と笑顔を見せた。本人も自信を持って語る“インディ初優勝に導いた80周の決勝レース”を振り返っていく。

 まずはスタート時に選択したタイヤが序盤戦の順位アップの原動力となった。ファイアストンが用意する2種類のスリックタイヤ(編注:排水用の溝のない、舗装路面を走行するために使用される車両用のタイヤ)のうち、ポールポジションのダリオ・フランキッティ(チップガナッシレーシング)と2番手のライアン・ハンターレイ(アンドレッティオートスポーツ)はソフト側のレッドタイヤを選択。一方、上位陣では珍しくブラックタイヤを選択した琢磨はスタート直後に3位に浮上し、レッドタイヤを履く2人を追いかける展開となった。

 舞台のロングビーチはコンクリートウォールに囲まれた市街地コース。少しでもミスをすればウォールに即クラッシュというリスクが伴う。無理に攻めず、確実に抜けるチャンスを待ち続けた琢磨は、レッドタイヤの消耗が進み始めた23周目のターン1でプッシュ・トゥ・パス(オーバーテイクボタン)を利用して2位に浮上。限界が近づいているレッドタイヤの首位フランキッティの背後に迫る。グリップ力では劣るが耐久性に優れているブラックタイヤを履く琢磨の戦略は見事に的中し、第1スティントで順位を上げることに成功した。

 2位に順位を上げた琢磨は、28周目に1回目のピットストップを行う。ここまでの好走にチームもミスのない迅速な作業で援護し、少ないピット作業時間で再びコースに復帰する。翌29周目にフランキッティも1回目ピットストップを行うが、作業に手間取りタイムロス。これで難なく逆転に成功した琢磨はついに初優勝への第一歩となるラップリーダーの座を手に入れた。

琢磨の激走を支えたチームクルー

 ラップリーダーに立った直後、後続でアクシデントが発生。この日2回目のフルコースコーション(セーフティーカー導入)となった。F1と比べフルコースコーションになる確率が高いインディでは、レース再開時の“リスタート”がオーバーテイクするチャンスにもなっている。今までは後ろから攻めるリスタートが多かった琢磨だが、今回は先頭を走っているため、後続を抑え込む必要がある。ラップリーダーにとっては一番のピンチも抜群の集中力を発揮。後続にすきを与えずトップを死守し、本格的な第2スティントに突入していく。

 第2スティントでレッドタイヤを選択した琢磨は、一気に後続との差を広げたいところだが、ブラックタイヤを履くグラハム・レイホール(レイホールレターマンラニガンレーシング)が39周目に2位に上がると琢磨を追いかけ始める。琢磨もペースを落とすことなく順調に周回するが、レッドタイヤの消耗も考え50周目付近で2度目のピットインを行う予定。ブラックタイヤでロングランが可能なレイホールより先にピットインしてしまうと、最終的に逆転を許す可能性もあった。

 しかし、今までは不運に見舞われることが多かった「レース展開」が今回は琢磨の味方になった。50周目にも後続でクラッシュが発生、この日4度目のフルコースコーションとなったのだ。この瞬間を逃さなかった琢磨はすぐにピットイン。同時に2位レイホールをはじめとする上位陣も一斉に最後のピット作業を済ませる。ここでもAJフォイトレーシングのクルーが完璧な作業で、トップをキープしたまま再びコースへ。いよいよ初優勝に向けた最終スティントが始まった。

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著者プロフィール

1984年生まれ。幼少の頃から父の影響でF1に興味を持ち、モータースポーツの魅力を1人でも多くの人に伝えるべく、大学卒業後から本格的に取材・執筆を開始。現在では国内のSUPER GT、スーパーフォーミュラを中心に年間20戦以上を現地で取材し、主にWebメディアにニュース記事やインタビュー記事、コラム等を掲載。日本モータースポーツ記者会会員

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