佐藤琢磨、日本人初優勝の裏側=本人も自負する完璧なレースの全貌

吉田知弘

勝敗を分けたタイヤマネジメントの差

 56周目にリスタートが切られ、無難にトップを死守した琢磨。自身の初優勝をかけ、2位レイホールと残り24周の一騎打ちがスタートした。最終スティントで選んだタイヤは両者ともにレッドタイヤ。同じタイミングでピットに入っているため、チェッカーフラッグまでの搭載燃料もほぼ同じという状態だ。最初の数周はレイホールに勢いがあり、一時は琢磨との差を1秒以内に縮め、チャンスをうかがう。しかし、琢磨も冷静にすきを見せない走りで対応すると、次第に流れが傾き始める。残り10周から両者のペースに差が出始め、琢磨は1分09秒2のラップタイムを連発し、レイホールを1周あたり約0.5秒ずつ引き離す。残り10周という終盤戦で何があってもバトルができるように琢磨はレイホールに追われながらも、きっちりタイヤマネジメントを行った結果が実った。

 その後、残り5周で4.7秒のリードを築くと、そのままミスのない走りでファイナルラップに突入したところで、後続のアクシデントが原因で5度目のフルコースコーション。ゆっくりと最終コーナーを立ち上がり、チェッカーフラッグ。待ちに待った琢磨のインディ初優勝が決まった。

すべての要素が出そろった結果の優勝

 2010年から活躍の場をアメリカのインディカー・シリーズに移し、今年で4シーズン目を迎えた。これまでに2度のポールポジションを獲得し、表彰台も2度経験している。特に昨年のインディ500では終盤まで優勝争いを演じたが、最終ラップで首位のダリオ・フランキッティを抜きにいった際にスピン。あと一歩というところで初優勝のチャンスを逃すなど、優勝するチャンスは何度もあったものの、不運なアクシデントやトラブルに見舞われ、ここまで未勝利に終わっていた。

 今回は不運なアクシデントもなく、逆にフルコースコーションのタイミングなどが味方し、終始有利な展開でレースを進めることができた。それだけではなくチームクルーも完璧なピット作業で彼の激走を支え、その期待に応えるかのように、琢磨は終盤になってもペースが落ちないようタイヤマネジメントに集中。F1と並んで世界トップクラスのオープンホイールカー(フォーミュラカー)レースであるインディで優勝するためには、そのどれか1つが欠けてしまったら勝つことが非常に困難になる。今までそろわなかった要素がすべてそろった結果だった。

<了>

2/2ページ

著者プロフィール

1984年生まれ。幼少の頃から父の影響でF1に興味を持ち、モータースポーツの魅力を1人でも多くの人に伝えるべく、大学卒業後から本格的に取材・執筆を開始。現在では国内のSUPER GT、スーパーフォーミュラを中心に年間20戦以上を現地で取材し、主にWebメディアにニュース記事やインタビュー記事、コラム等を掲載。日本モータースポーツ記者会会員

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント