プジョルの元コーチが語る日本サッカー=「スペインも日本から学ぶことがある」

イースリー

攻撃をコントロールできる選手が必要

日本の学生を指導するエルナンデス氏(中央)。自身の指導経験から日本のサッカーを高く評価している 【サッカーサービス】

――日本人選手全般についてはどのような印象を持ちましたか?

 個人能力については高いものがあると感じました。なかでもウイングやサイドバック(SB)など、サイドプレイヤーはテクニック、フィジカル、戦術理解度に優れています。SBは頻繁に攻撃参加し、ウイング(やサイドハーフ)の選手は、前にスペースがあると積極的に高い位置をとってプレーしていました。ドリブルには「レガテ(相手をかわすドリブル)」と「コンドゥクシオン(ボールを運ぶドリブル)」とがありますが、SBの選手は前方にスペースがあった場合、果敢にスペースへとドリブルで進入していました。サイドの選手がボールを持って駆け上がるプレーは非常にヨーロッパ的で、日本サッカーの特徴のひとつです。

――サイドプレイヤー以外のポジション、たとえばセントラルMFやセンターバック(CB)については?

 日本のサイドプレイヤーに特徴的な選手が多く、戦術的にもサイドを使って攻め込もうとするのであれば、サイドの選手を生かすためにもピッチの中央にいるMFやCB、FWがもっと積極的にサイドの選手をサポートしたほうが良いと感じました。

 われわれの攻撃時のコンセプトのひとつに、バックパスやサイドチェンジを効果的に使って、中、外、中、外とボールを動かし、相手の守備を広げさせるプレーがあります。これはヨーロッパのトップレベルのチームが取り入れているスタイルです。具体的にはボールを持っている際、パスを回して相手を引き寄せたり、押し込んだりして、相手のディフェンスラインと中盤のラインを開かせて、『深さ』を作り出そうとします。バルセロナの攻撃をイメージしてもらえれば分かりやすいかもしれません。

――サイドプレイヤーと中央の選手の『クオリティーの違い』は、なぜ生まれるのでしょう?

 われわれは日本の多くの選手を指導し、トレーニングの現場を視察しましたが、日本で行われている練習はドリブルで相手をかわす、スペースへ進んでいくなど、ウイングやSBに適した練習が多いと感じています。それゆえ、たとえ中盤の真ん中の選手であっても、ウイングやSBのようなプレーをする傾向が強いのです。

 その結果、質の高いウイングやSBが育っている現状があるのですが、一方で『パス』や『サポート』のトレーニングに関してはそれほど重視してこなかったため、ピッチの中央に位置し、パスやサポートを通じて攻撃をコントロールすることのできる選手が少ないのではないかと分析しています。

 日本の特徴であるサイドの選手をより生かすために、ピッチ中央の選手がサポートやパス、バランスなどを身につけるトレーニングを育成年代から取り入れていくことで、より効率的で魅力的なプレーが増えていくのではないかと思います。

日本には“日本なり”の正解がある。

――私は日本の育成年代の指導現場を取材していますが、たしかにそのような練習をしているチームが多く、サポートやスペースの意識に重点を置いてトレーニングを行っているチームをあまり見たことがありません

 スペインではU−13の時点で、ピッチの中央でプレーする選手のコンセプト(サポート、パス、周囲の選手とバランスをとる動きなど)が入った練習を多く行っています。ただし誤解してほしくないのですが、これを持って日本の指導が間違っている、スペインの指導が良いと言っているわけではありません。あくまで、両国のサッカーの違いを話しているにすぎません。

 われわれは2年前の来日以降、講習会を数多く実施していますが、参加してくれている指導者のみなさんに言っていることがあります。それは『お互いに情報交換をしましょう』ということです。日本の指導者の中には、「スペインのサッカーこそが正解であり、日本の指導者は覚えなくてはいけないことがたくさんある」と考えている方も少なくないと思います。しかし、スペインも日本のサッカーから学ぶべきことはたくさんあると思います。

――具体的にはどの部分でしょう?

 常に攻撃的でスピードがあるところ、カウンター攻撃のうまさなどです。例を挙げましょう。昨年の夏、ロンドン五輪でスペインと日本のU−23代表チームが対戦しました。結果はご存じのとおり、日本が1対0で勝利しました。

 五輪でスペインと日本が同じ組に入ったとき、私の周囲の指導者は「4、5点取って、スペインが勝つのではないか」と言っていました。しかし、私はその意見に賛成することができませんでした。私はスペインの指導者仲間よりも、日本のことをよく知っていたからです。

 私は日本に対して、スペインが中盤で簡単にボールを失うことが多くなれば、負ける可能性が高いと考えていました。なぜなら日本はスピードがあり、アグレッシブで、ボールを持って果敢に攻め込んでくる選手が多いからです。日本とスペインとは特徴が異なります。どちらが上、下というものではなく、両方の得意分野を組み合わせたときにものすごく良いチームができると思っています。これは決して社交辞令ではなく、多くの日本人選手と触れ合い、試合を分析してきた私の率直な意見です。

<了>

世界で得た答えは「サッカーを理解した選手」を育てること

知のサッカー第2巻(監修:サッカーサービス) 【サッカーサービス】

 チャンピオンズリーグで活躍する選手の育成を目指すサッカーサービス。リーガや欧州での選手コンサルティングや、バルサや世界で得た育成の答えは「サッカーを理解した選手」を育てること。その彼らのメソッドを凝縮した選手向けDVD『知のサッカー[第2巻]』が発売される。サッカーサービスが分析したJリーグの試合映像を元に、攻守における個人戦術、グループ戦術などを解説。現在、オフィシャルサイトにて先行予約を受付中だ。

ライタープロフィール:鈴木智之

 スポーツライター。『サッカークリニック』『サカイク』などに選手育成・指導法の記事を寄稿。著書多数。最新刊は『ゲキサカ』で好評連載中の『青春サッカー小説  蹴夢 KERU-YUME』(講談社)。「読めばサッカーがうまくなる」をモットーに、練習の大切さ、うまくなるために必要な情報を小説の中で表現した意欲作。TwitterID:suzukikaku
・http://suzukilog.seesaa.net/

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