北島康介の泳ぎに変化、完全復活なるか=競泳日本選手権で見えた課題

田坂友暁

さすがの北島も50メートルは対応できず

スピード感、軽快さはなかったが、北島は今持てる力を最大限発揮するための泳ぎで対応した 【写真は共同】

 今大会の北島はキックで推進力を得られないので、上半身のパワーでカバーした。それでも1ストロークで進む距離はキックを効かせる今までの泳ぎより短いので、テンポを上げて対応。そのため、スムーズに水面近くを進んでいく北島ではなく、どこかパワフルで、力ずくで身体を引っ張る泳ぎになっていた。さらに、うまく100メートルの中で力を配分して、タッチの瞬間に100パーセントを出し切れるような体力の調整もしていたのである。1分00秒78というタイムは、「良くて(1分)00秒4か00秒6あたりが、今の自分の力だと思っていた」と自身が話すように、自分の状態をしっかりと把握した上での結果だった。

 北島本来のスピード感と軽快さはなくなったものの、あまり良くないように見える泳ぎこそが、今大会で北島が今持てる力を最大限発揮するための手段だったのである。

 しかし50メートルでは、さすがに北島も対応し切れなかった。100メートルでは冷静に対応できたものの、たった50メートルでは落ち着く時間がない。上半身のパワーとテンポで、出ないスピードをカバーをしようとしていたものの、それがさらに泳ぎを空回りさせてしまった。タイムを見るとよく分かる。100メートル決勝の前半50メートルが28秒45であるのに対して、50メートルは予選こそ27秒97で泳げたものの、決勝は28秒05。100メートルのタイムから考えれば、27秒6前後は出ていいはずだ。

 従来のように、抵抗の少ない姿勢でストロークもキックも効果的に推進力を生み出していれば、タイミングを崩さずテンポを上げられれば、それだけスピードも上がるところだが、今回はただ単にテンポだけが無駄に上がり、推進力を生み出せない空回りになってしまった。

 北島は100メートル決勝のレース後に「悪いときは、水の中に入ると重いなと感じる。バランスが少し悪くなるだけで普段のキックができなかったり、感覚が良くなかったりする。平泳ぎは難しいなと感じる」と話した。“キング”北島の平泳ぎは、パワーがありすぎても、ただ泳ぎのテンポを上げるだけでもダメ。ストロークとキックのタイミングとバランス、そして高いボディーポジションが生み出すスムーズな重心移動が最高の組み合せになって、初めて最大限のパフォーマンスを発揮できるのである。

バルセロナは世界新記録を出した縁起のいいプール

 日本選手権が終わった翌15日、バルセロナで行われる世界選手権の日本代表選手記者発表会が行われ、北島は4×100メートルメドレーリレーの一員に選ばれた。昨年のロンドン五輪で銀メダルを獲得した種目であり、北島の責任も重大だ。年明けから3カ月で迎えた日本選手権で、これだけのパフォーマンスを見せてくれた北島の調整能力は、特筆すべき点である。ここから先、どのように自分の身体と泳ぎを調整するのだろうか。

 50メートル決勝を終えた後、北島は「もし世界の舞台で戦えるチャンスをもらえるなら、しっかりと力を出したいと思うし、チームに少しでも貢献できるような泳ぎをしたい」と話ていたが、その思いはつながった。くしくも、バルセロナでの世界選手権の会場は、100メートル、200メートルの(当時の)世界新記録を樹立して2冠を達成した2003年の世界選手権と同じで、縁起のいいプールだ。

 残り3カ月、北島のメンタルには何も心配はない。あとはフィジカル強化と調整、それに合わせたテクニックの調整ができれば、心・技・体がそろったキングの姿を情熱の国、スペインで見せてくれるだろう。

<了>

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著者プロフィール

1980年、兵庫県生まれ。バタフライの選手として全国大会で数々の入賞、優勝を経験し、現役最高成績は日本ランキング4位、世界ランキング47位。この経験を生かして『月刊SWIM』編集部に所属し、多くの特集や連載記事、大会リポート、インタビュー記事、ハウツーDVDの作成などを手がける。2013年からフリーランスのエディター・ライターとして活動を開始。水泳の知識とアスリート経験を生かした幅広いテーマで水泳を中心に取材・執筆を行っている。

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