長友はなぜ左膝の故障を再発させたのか=チームドクターへ募る監督の不信感

神尾光臣

相次ぐ離脱者で募る監督の不信感

ストラマッチョーニ監督は相次ぐ離脱者にチームドクターへ不信感を募らせる 【Getty Images】

 実はこれと前後し、インテル番のイタリア人記者の間では「長友の件について、ストラマッチョーニ監督はチームドクターにかなりの不信感を抱いているらしい」といううわさが立っていた。

 今シーズンの後半戦でインテルは、選手の故障と長期の戦線離脱者が相次ぎ、苦しい戦いを強いられていた。2月にディエゴ・ミリートが左膝の靱帯(じんたい)を断裂させて長期離脱が決まれば、今度はミリートの代わりを務めていたロドリゴ・パラシオが故障。そして今度はアントニオ・カッサーノが故障と、FWは全滅。他のポジションにも故障者が多く、試合ごとにスターティングメンバーやシステムを変更ざるを得ないような状態だった。

 その状況下にあって、ユーティリティーの効く長友は貴重な存在。ストラマッチョーニ監督は「試合中の戦術変更が効くという意味でユウト(長友)の不在はこたえる」と復帰を熱望していた。しかし医師がはっきりとしたことを言わず、慎重すぎるほど起用に否定的。そもそも治ったと思った選手がすぐまた故障し、こういった状況についてイライラを募らせているというのだ。なかには「責任を取らされて、今季終了後にドクターを更迭か」という記事を出した記者もいた。

 しかし、サンプドリア戦では実際に招集を見送られていることから、長友本人の具合についても疑念の目が向けられた。コリエレ・デッロ・スポルトは「火曜日(4月2日)の時点で膝に違和感が残っていたためドクターが招集を止めた。これが続くようなら手術の必要もあり、その場合今シーズンの出場は絶望」と報じ、またガゼッタ・デッロ・スポルトも「シーズン中は歯を食いしばって頑張った後、今シーズン終了後に手術か」と報じていた。

何よりも大事なのは無事に復帰すること

 かくして14日、中立開催地であるトリエステのネレオ・ロッコスタジアムに降り立った長友は、シーズン終了まで歯を食いしばるどころか、残念ながら8分と持たなかった。ペリコとの接触が引き金にはなったものの、「彼がもともと痛みを覚えていた左膝にチャージが入ったのは、全くの不可抗力だ」とストラマッチョーニ監督は語っている。チームは手術をせず、保存療法で治す方針を立てたが、1カ月程度では収まってはいなかったと見るのが自然だ。

 現在、長友の詳しい症状については検査待ちとなっている。そしてそれを見てインテルは手術か否かの最終判断を下す。もっとも衛星TV局スカイ・イタリアの記者いわく、「クラブの意思は9割がた手術へ傾いている」という。そして手術の場合は今季絶望、ワールドカップアジア地区最終予選やコンフェデレーションズカップの出場も危ぶまれる。それも当然重要だが、やはり本人が無事に復帰できるかどうかが一番大事なことだろう。

 長友がインテルのチームメートやスタッフ、ファンの心を引きつけている最大の要因は、練習から試合に至るまで常に全力で走り続ける姿勢にある。今季、個人練習で長友の左クロスを磨いたジュセッペ・バレージ副監督は「あの勤勉な姿勢があるからこそ、彼はどん欲にいろいろなものを吸収できたのだ」と感心し、目を細めていた。ランニングはプレースタイルの上でも、またサッカー選手としての姿勢の上でも、長友の根元をなす。膝の故障が慢性化してそれに影響を与えることがないように、きっちりと治されることを願って止まない。

<了>

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著者プロフィール

1973年9月28日、福岡県生まれ。東京外国語大学外国語イタリア語学科卒。97年の留学中にイタリアサッカーの熱狂に巻き込まれ、その後ミラノで就職先を見つけるも頭の中は常にカルチョという生活を送り、2003年から本格的に取材活動を開始。現在はミラノ近郊のサロンノを拠点とし、セリエA、欧州サッカーをウオッチする。『Footballista』『超ワールドサッカー』『週刊サッカーダイジェスト』等に執筆・寄稿。まれに地元メディアからも仕事を請負い、08年5月にはカターニア地元紙『ラ・シチリア』の依頼でU−23日本代表のトゥーロン合宿を取材した。

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