大宮アルディージャが負けない理由=徹底した守備で新記録樹立なるか

上野直彦

3位に位置する強さの秘密とは

好調の大宮を支えるボランチの金澤(右23番)。リーグ新記録が懸かる浦和戦でも注目が集まる 【写真は共同】

 試合開始わずか30秒の出来事だった。扇原貴宏の縦パスをカットした金澤慎が、右足を思い切り振り抜く。「パスをカットした瞬間にGKが前に出ているのが見えた」と話す金澤の約50メートルの超ロングシュートは、GKの頭上を越えてゴールに突き刺さる。その後、一度は追いつかれるも、後半40分に追加点。ズラタンがペナルティーエリア内で茂庭照幸の頭上を越す鮮やかなシャペウ(ポルトガル語で帽子)というフェイントから、ボールの落ち際を左足のボレーシュートでジャストミート。これが、決勝点となり大宮アルディージャはセレッソ大阪に2−1で競り勝った。

 5月2日に64歳の誕生日を迎える、Jリーグ最年長監督のズデンコ・ベルデニック率いる大宮。昨季から続くリーグ戦の無敗記録を「17」にまで伸ばし、第6節終了時点で勝ち点14のリーグ3位につけている。その強さの秘密はどこにあるのだろうか。

チームをけん引するボランチ“金澤”の存在

 ベルデニックが大宮の監督を引き受けたのは、2012年6月にヴァンフォーレ甲府の指導者向けの講習で来日していたのがきっかけだった。母国・スロベニアのリュブリャナ大学で教授を務めた経験と、また何事も理路整然と語り、その風貌もあいまってついたあだ名が「教授(プロフェッサー)」。チームの現状やバックグラウンドの説明を受け、早速チームの立て直しに着手したが、完成までは苦悩の連続だった。

 ベルデニック監督は就任後、まずは残留を目的とし、守備の練習から取り掛かった。守備ブロックの形成と、ボール奪取からのカウンター攻撃の練習を繰り返し行う。練習の意図は、攻守の切り替えの早さと守備意識の徹底だ。

 その過程で頭を悩ませたのは、攻守においてバランスの良い選手を配置することだった。今でこそ、ボランチの一角としてチームをけん引する金澤だが、ベルデニック監督はチーム再編当初は不慣れな右サイドハーフで起用。これには金澤自身も「やりづらさがありました。攻撃にも絡めなかった」と話す。しかし、ベルデニック監督はその守備力に注目し、鈴木淳前監督が育て上げた青木拓矢とダブルボランチを組ませることを決断する。

 金澤と青木は最終ラインとの連係も良い。どちらかのサイドバック(SB)が上がった際には、もう一方がセンターバック(CB)との間に下りて、CBが開いたときは、そのギャップにどちらか一人が必ず下がっていく。CBも、昨年なら相手の攻撃につられて大量失点することもあったが、今はスッと引いていく。「まずボランチとCBが一度引いて相手のスペースを消す、それからボール奪いにいく」。ベルデニック監督は各ポジションの役割の明確化と同時に順序も確立させた。

 大宮の“ボールを奪われた後の戻り”の速さ、正確さ、強さはリーグの中でもズバ抜けている。2枚のボランチとディフェンスの4枚の計6枚で、どんな攻撃でも守り切る現在の体制をベルデニックは築き上げた。

 その体制の効果が顕著に表われたのが、C大阪戦で前半に柿谷曜一朗が何度か裏を取ろうとした場面だ。大宮は、中盤の金澤と青木のダブルボランチが何度もはじき返し、柿谷の侵入を防いだ。また6日のFC東京戦でも、高橋秀人と長谷川アーリアジャスールの効果的なパスをことごとくはじき返したばかりか、配球そのものを防ぐシーンさえ見られた。

 中でも特に存在感を発揮した金澤は、高校1年生のときに大宮ユース1期生として加入した。当時の大宮はピム・ファーベーク監督の下、4−4−2のゾーンディフェンスを取り入れており、金澤も徹底してこの戦術をたたき込まれた。C大阪戦でもその経験をフルに生かし、事前に危険なところを消し、危ない場面に現れては体を張ったプレーを何度も見せていた。大宮が思うように勝ち星を拾うことができず、苦しみ続けた歴史を知るこの29歳のベテランは、選手として円熟期に入り、オールドファンや新しいファンからも愛されている。「オレンジの魂」を持つ金澤の活躍が、チーム躍進の原動力であることは間違いない。

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著者プロフィール

兵庫県生まれ。スポーツライター。女子サッカーの長期取材を続けている。またJリーグの育成年代の取材を行っている。『Number』『ZONE』『VOICE』などで執筆。イベントやテレビ・ラジオ番組にも出演。 現在週刊ビッグコミックスピリッツで好評連載中の初のJクラブユースを描く漫画『アオアシ』では取材・原案協力。NPO団体にて女子W杯日本招致活動に務めている。Twitterアカウントは @Nao_Ueno

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