五輪切符手にしたアイホ女子の次なる目標=世代を越えるスマイルジャパンの意志

高野祐太

先輩と後輩のコミュニケーションが元気の素

坂上(左)と仲睦まじい2ショットを見せる和田さん。引退しても先輩後輩の絆は変わらない 【高野 祐太】

 現代表が元代表から背中を押してもらった例はほかにもある。もう1つ挙げるなら、坂上智子と平野由佳(ともに三星ダイトーペリグリン)がバンクーバーまでの3大会で代表だった和田悦子さんから元気をもらい、ステップアップを果たしたことだ。

 坂上と平野は、和田さんとよく食事に行く気心の知れた間柄。ソチ五輪最終予選の前にも食事に行ったし、和田さんの自宅に泊まり込んで、和田さんが作ったセミプロ級のフルコースに舌鼓を打ったこともある。そんなとき、和田さんはアイスホッケーの具体的なアドバイスをすることはあまりせず、おいしい料理と他愛(たわい)もない話でプレッシャーから解放してあげるのが常だという。だが、そんな砕けたやり取りの中でも時折アイスホッケーに触れることがある。

 後輩が「筋トレしっかりやったので、こんなに筋肉付きましたよ」と近況報告すると、先輩が「いいぞ、いいぞ」と返す、というように。こうしたごくありふれたコミュニケーションにこそ元気の素はあるようで、坂上は「厳しい方だから、ほめてもらえたときはすごくうれしい」と話し、平野は「学ぶことがいっぱいあって、いろいろ教えてくれた先輩なので、今でも何かあったら頼っています」と笑顔を見せた。

 実際、和田さんの刺激も受けて「外国人との生まれ持った骨格の差を補わなければならないし、私は余計に小柄なので」(平野)、「悔いの残らないように苦手な下半身も徹底的に」(坂上)という高い意識で体を鍛えた結果、日本代表は外国勢に押し負けないほどのフィジカルを手に入れている。和田さんは「平野は競り合いで倒れなくなったし、坂上も(パワーを重視していた)私に負けないくらい取り組んでいました」と後輩の努力に目じりを下げた。

たくましさ増すスマイルジャパン

 現役代表の間でも、世代間で五輪に懸ける意志の伝達は行われている。坂上は29歳。自身もトリノとバンクーバーでの挫折を経験しているベテランだ。そして、ソチ五輪の挑戦を終えたとき、現役は最後にする覚悟でいる。だから、そういう自分には後輩たちへ何かを伝える役割があると思っている。「前回までは若かったから勢いだけで行っていて、普段通りのプレーができなかった。でも今回の挑戦では平常心でできるんじゃないかとずっと思っていて、(代表が)初めての子たちにも声をかけられるし、経験したことの話もできるし。それを伝えて今回で最後にしようと思ったんです」

 伝えたかったこととは何か。坂上が続ける。「前回の最終予選では、最後の中国戦で、自分たちも厳しい練習をやってきたのに相手の方がもっとやってきたのではないかと不安にとらわれてしまった。だから、『そうならないように、悔いがまったく残らないくらいの努力をした方がいいよ』とか『アウエーだから緊張もするし、パックを持ったらブーイングもすごいかもしれないけど、そういうことの一切を気にせず、試合を迎えるまでや、試合が始まってからも、常にいつも通りを心がけた方がいいよ』という話をしました」

 伝え方にも「言い過ぎて萎縮されないように、言わなさ過ぎて自分のプレーができなくならないように」細心の注意を払い、姉御肌のキャラを生かして「マジやばいから」というような砕けた言い回しを心掛けたと言う。坂上の思いは伝わらなかったはずがない。最終予選で見せたノルウェー戦の逆転劇やデンマーク戦の大量5得点の快勝は、坂上がイメージしていた“いつも通り”のプレーだったのだから。

 そうして、たくましくなった女子日本代表。間もなく始まる世界選手権でも、それぞれの世代がそれぞれの思いを抱きながら、同じ目標に向かって突き進む。“スマイルジャパン”の乙女たちは、平昌五輪に一発出場、という新たに見つけた目標にも、持ち前の明るさで軽やかに挑んでくれるはずだ。

<了>

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著者プロフィール

1969年北海道生まれ。業界紙記者などを経てフリーライター。ノンジャンルのテーマに当たっている。スポーツでは陸上競技やテニスなど一般スポーツを中心に取材し、五輪は北京大会から。著書に、『カーリングガールズ―2010年バンクーバーへ、新生チーム青森の第一歩―』(エムジーコーポレーション)、『〈10秒00の壁〉を破れ!陸上男子100m 若きアスリートたちの挑戦(世の中への扉)』(講談社)。

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