アヤックスはロジカルをピッチに還元する=映像やデータを駆使した試合分析法
1試合で電話帳1冊分にもなる試合データ
データ解析システムを操るサントーニ。試合データは1試合で電話帳1冊分にもなるという 【中田徹】
「もちろん最後はアヤックスのテクニカルスタッフが現地へ飛んで、実際にサナのプレーを見て最終決断を下したが、先にこのシステムでしっかりチェックしていた。この(選手獲得の)スカウティングの分野は、将来もっと発展するだろう」
アヤックス・アマチュアチームのコーチ、白井裕之はサントーニの分析の仕事も手伝っている。「分析部門の仕事はゲーム分析、ビデオ分析、データに分かれる」と彼は言う。
ゲーム分析は、実際に自分の目で試合を見て、前後半のフォーメーション、両チームのビルドアップの方法などを紙の上でチェックしていくこと。
ビデオ分析はビデオを撮って編集していく。アヤックス・アマチュアチームでは、これが白井の仕事となる。ひとつは試合のビデオを撮ること。これはタブレットにインストールしてあるソフトと連動しており、試合中、気になった場面があれば『ビルドアップ』『(攻守の)切り替え』『相手チームのビルドアップに対する守備』『チャンス』『得点』『個人』などといったラベルを押していく。すると、試合後すぐ、各項目ごとにビデオが分類される。試合中、ベンチのサントーニから「今のシーンを分類しておけ」と手でサインが送られたら、白井はラベルを押す。
土曜日の試合が終わると、白井は日曜日にビデオを編集し、チームや個人のうまくいったところや課題の映像を作り、月曜日のミーティング資料として使う。
選手個人のビデオは“チームシェアリング”というSNSを使って共有し、選手たちは試合の翌々日には自分のプレーした場面の映像をすべて見ることができる。質問があったら選手とコーチングスタッフがチャットする。この個人映像作りも白井の仕事だ。
データに関しては、アヤックスはオルテックという会社と契約し、毎試合データを取っている。4人が2人1組になってタッチペンを使いながら、各選手のポジションやパスなどをコード化していき、試合中のすべての動き(例えば選手のポジショニングやパスの方向など)を記録していく。データは1試合で電話帳1冊分になるという。
人の感情を排しロジカルに分析
将来、選手獲得の分野では、さらにデータの活用が進むだろう。
「アヤックスにその選手が合うか合わないか――。テオ・ヤンセン(現フィテッセ)はアヤックスに合わなかったが、それは中盤でボールを下がってもらいたがったからだ。彼にとってはそれが習慣。しかし、今のアヤックスのやり方とは合わなかった。それは、彼のプレーをコード化しておけば分かったはず。アヤックスがルーマニアで良い左サイドバックを見つけたとする。本当に獲得するかどうかを検討するときに、現アヤックスの左サイドバックのデーリー・ブリントの動きをデータ化し、『これがアヤックスの左サイドバック』というのを映像化しておく。こうしてスカウトの目だけでなく、客観化した目で選手の獲得をどうするか決めていく」(白井)
今、オランダのスタジアムに行くと、各チームのスカウトがタブレットを持ちながら、映像とリンクさせている姿を目にすることができる。こうした分析システムはオランダ各チームが採用しており、ソフトも世界中で買うことができる。だから、最終的には現場の活用方法で差別化が図られるのだろう。
「ボール扱いがうまい選手、それが良い選手なのではない。試合の状況によって、一番良い選択ができる選手、それが良い選手。こうしたサッカーの考え方の土壌があれば、分析システムは非常に効果的です。今、アヤックスでは人の感情を排してロジカルに、試合中、選手がどこに立っていたのか、どんな習慣があるのか、どんな特徴があるのか、どうして一定の場所に行きがちなのか、それを映像やデータを取った上で分析し、試合の対策を練ったり、練習に活用したりしている。オランダの指導者の強さのひとつは戦術的な知識が豊富で、サッカーの分析ができること。また、それをしっかり言葉にして選手に伝えることができる。最終的にはそれをサッカーのトレーニングに落とし込む。来週、フェイエノールトと試合をするなら“仮想フェイエノールト”を作って、『うちはこういうサッカーをするんだ』というロジカルをピッチの上に還元する。そこがオランダサッカー界の強さのひとつだと思います」(白井)
サントーニが立ち上げたアヤックスの分析部門。白井はその進歩に“ビデオ分析アナリスト”という肩書きで貢献している。
<了>