東京は五輪招致のライバルをリードできた?=IOC評価委員会の3都市視察を検証

高樹ミナ

IOC評価委員会の現地視察に対し、東京はオールジャパン体制でアピール。国を挙げての招致活動に、猪瀬都知事(中列右から2番目)も満足感を示した 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

 2020年夏季オリンピック・パラリンピックの開催都市選定に向けたIOC(国際オリンピック委員会)評価委員会の訪問が3月27日、すべての日程を終えた。東京(3月4〜7日)を皮切りにマドリード(18〜21日)、イスタンブール(24〜27日)の順で実施された現地調査で、東京はライバル都市に差をつけることができたのか。16年招致を経験した視点から他2都市の状況と併せて検証してみたい。

純粋に開催計画を調査するIOC評価委員会

 IOCは02年冬季オリンピック・パラリンピック招致の際に起きた「ソルトレークシティー招致スキャンダル」と呼ばれる事件以来、IOC委員が自由に立候補都市を訪問することを禁止している。当時、ソルトレークシティー招致委員会と一部のIOC委員の間で法外な金銭授受があったためだ。

 これを機にIOCは評価委員会を設け、各都市から事前に提出された立候補ファイルを検証する現地視察を実施。調査の結果を評価報告書にまとめ、各IOC委員の開催都市選定の材料としている。また、立候補都市には評価委員会受け入れの予算をできるだけ抑えるよう通達もしている。

 こうした経緯からも評価委員会の目的があくまで開催計画の技術的調査であることが分かる。実際、評価委員たちは朝早くから夜遅くまでテクニカルプレゼンテーションやサイトビジット(会場予定地の視察)、メンバー同士のミーティングなど過密スケジュールをこなす。一部、公式晩さん会のような華やかな行事もあるが、盛大なもてなしは期間中、一度きりである。

オールジャパン体制で東京の“本気度”をアピール

「今回はオールジャパンで一丸となったことが(IOC評価委員に)良い印象を与えたのではないか」。評価委員会視察の最終日、猪瀬直樹・東京都知事は4日間を総括してそう語った。「オールジャパン」とは政府の全面的支援と経済界のサポート、スポーツ界の結束、都民・国民の支持を意味する。いずれも前回16年招致のときに比べ格段にアップしている要素だ。

 20年招致においては、政権交代を果たした自民党が民主党時代にも増して招致活動を後押し。経済界からも張富士夫氏(トヨタ自動車株式会社・代表取締役会長)という財界のトップが加わり、評価委員会のプレゼンテーションでも強力なサポートをアピールした。張氏は11年から日本体育協会会長も務めている。

 評価委員会の視察中にはIOCの独自調査の結果、都民の支持率が70%に上ったことも発表された。47%にとどまった昨年5月の調査から23ポイントも上昇。また、クレイグ・リーディー委員長ら評価委員たちが皇太子殿下を表敬訪問したことも大きなインパクトとなった。オリンピック・パラリンピック招致において、その国の皇族や王族が登場する場面は通例となっており、12年ロンドン招致の評価委員会ではエリザベス女王自らプレゼンテーションに立っている。東京は16年招致のときも皇室に働きかけを行ったが協力は得られず、今度こそ国を挙げて本気の招致活動を行っているのだという姿勢をアピールできた格好だ。その満足感が猪瀬知事の「今回はオールジャパン」という言葉に込められている。

評価委員の求める回答を連発したプレゼン

 14テーマに及ぶ大会の開催計画を説明するテクニカルプレゼンテーションは、初日から質の高さが評価された。その要因を「IOCがどんなことに関心を持ち、何を聞きたがっているかを把握して、彼らの納得する回答を返すことができたのだと思う」と語るのは、東京都スポーツ振興局招致計画担当課長の澤崎道男氏だ。澤崎氏は16年、20年と連続で競技会場計画を担当し、テクニカルプレゼンテーションにも参加している。評価委員からはかなり専門的で詳細な質問が出たが、回答に窮する場面はほとんどなかったという。

「16年招致からの情報の蓄積と海外の専門家からのアドバイス、競技会場計画に対する各国際スポーツ競技連盟からの指摘の数々が評価委員たちを納得させる回答につながりました。また、プレゼンテーションや質疑応答にあたる人間の人選も組織の肩書きや立場にこだわらず、その分野に最も詳しい適任者をそろえたことが効果的だったと思います」

 さらに、「結局のところ、IOCも完璧な回答を求めているわけではないんです」と澤崎氏。「立候補都市が現在の課題を理解し、今後発生するだろうリスクも承知しているかどうか、そしてIOCや五輪を取り巻く関係各所と調整しながら計画を進めていく姿勢や組織力があるかどうか、そこを見ているのです」と招致活動2回目にして得た率直な感想を述べている。

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著者プロフィール

スポーツライター。千葉県出身。 アナウンサーからライターに転身。競馬、F1、プロ野球を経て、00年シドニー、04年アテネ、08年北京、10年バンクーバー冬季、16年リオ大会を取材。「16年東京五輪・パラリンピック招致委員会」在籍の経験も生かし、五輪・パラリンピックの意義と魅力を伝える。五輪競技は主に卓球、パラ競技は車いすテニス、陸上(主に義足種目)、トライアスロン等をカバー。執筆活動のほかTV、ラジオ、講演、シンポジウム等にも出演する。最新刊『転んでも、大丈夫』(臼井二美男著/ポプラ社)監修他。

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