本田、長友不在で注目される代役の存在=カナダ戦は日本の幅を広げるきっかけに

西川結城

香川のトップ下起用の可能性

カナダ戦のトップ下には中村(右)の起用が濃厚。昨年のフランス戦では不完全燃焼に終わっただけに、挽回のチャンスを得ることはできるのか 【写真:アフロ】

 そして、誰もが注目する、背番号4のいないトップ下のポジションである。
 現在の時流を考慮すれば、多くの人々は世界のトップクラブであるマンチェスター・ユナイテッド(イングランド)で日々研鑽(けんさん)を積む、日本のナンバー10がこの位置で躍動する姿を見たいと思っているのではないだろうか。

 実際にドーハでの練習でも、香川真司がトップ下に入る形を試している。ただし、この形を試合の長い時間で採用するには、1つの条件が考えられる。それは、セレッソ大阪時代の後輩、清武弘嗣(ニュルンベルク/ドイツ)の存在に関係している。

 普段、香川は代表では左サイドでプレーしているが、仮に今回彼がトップ下に入るとすれば、その空いたサイドの位置に入る候補の一番手が清武である。清武に対する評価は、ザッケローニ監督の中でも急速に高まっており、ドイツで彼が先発でコンスタントに出場していることはもちろんのこと、パスも出せて、ドリブルも仕掛け、さらに得点力もあるというそのマルチな能力が買われている。サイドの位置から中央に入り込んで得点を決めるパターンは、アウエーのオマーン戦での先制点の場面でも見せており、また逆サイドの岡崎がゴール前に走り込んでくる動きに対しても、的確にラストパスを送り込める視野とキックの精度も併せ持つ。清武がサイドにいれば、香川も気兼ねなくトップ下の位置に移りプレーすることができるだろう。

 その清武だが、ドーハ入り後に左足付け根に違和感を訴え、別メニューでの調整となる日があった。あくまで大事を取っての対応のようで、カナダ戦前日の練習にはすぐに復帰を果たしている。それでも、慎重派でもあるザッケローニ監督が本番のヨルダン戦を前にしたカナダ戦で、清武に長い時間のプレーを強いるかどうか……。そう考えると、やはり今回のカナダ戦は、途中出場になると見るのが妥当だろう。

 サイドアタッカーでは、乾貴士(フランクフルト/ドイツ)の存在も忘れてはならない。ただし、香川や清武に比べ、よりドリブラー色が強い一方、戦術的タスクを詳細にこなすことにはまだ不備が残る。そのため、ザッケローニ監督のチームでは現時点で先発向きの選手ではないと言える。逆にこう着した試合展開やビハインドの段階で、チームに変化を与えるスパイスとしては欠かせない存在だけに、彼の先発も考えにくい。

中村に求められるよりMF的な役割

 すると、必然的に本田の代わりにカナダ戦でトップ下の座を任されるのは、やはり中村憲剛(川崎フロンターレ)だと思われる。ザッケローニ監督は先日、本田の代役問題に関して香川と中村の使い分けを問われた際、こう言及している。「中村と香川はタイプの違う選手。中村はよりMFタイプの選手で、中盤にバランスをもたらす。香川はよりトップに近い選手。トップ下に誰を起用するかは試合前の選手のコンディションを見ないとわからないが、1つは2列目の左右サイドの選手をどういう構成で起用するかにも関係してくる。われわれのチームは左右のMFをFWのように見立てることもあるので、それによってトップ下の選手も決めていきたい」

 1トップに2列目の3人(トップ下+左右サイドハーフ)の4人が攻撃を担うのは当然だが、ザックジャパンの場合、両サイドに入った2人には斜めの動きでゴール前まで果敢に侵入する役割が高いレベルで求められている。サイドで張る、もしくは2列目にいるだけの選手では物足りない。自分でボールを運んでいける香川やオフザボールの動きに長けた岡崎といったアタッカータイプの選手が、同ポジションで起用され続けていることからも、それは明らかだ。

“勇気”と“バランス”という言葉をチーム哲学として指揮官は多用するが、1トップと左右サイドの2人が“勇気”のある攻撃的なプレーをするのであれば、トップ下に入る選手はその“勇気”と同じ分だけ“バランス”を取るプレーも不可欠になってくる。具体的には引いてパスを受けてはそこで攻撃の起点になり、また前に出ていく。守備の場合も後方に構えるダブルボランチと連係して、中央の陣形を固く閉ざしていく。それを踏まえると、ザッケローニ監督が「よりMFタイプの選手」と評した中村が、その役割をこなすことに最適な選手であることがわかる。

 中村は「トップ下に(香川)真司が入っても自分が入っても、タイプは違うけど結果を出せるようにしたい」と、経験豊富な選手らしい落ち着きを見せている。ただ、個人的には悔いが残る試合もあっただけに、挽回したい思いが強い。「去年の10月のフランス戦は、自分がトップ下で先発のチャンスをもらった。でもそこで相手のフィジカルにも苦しんだし、自分らしいプレーができなかった(前半のみで交代)。でも今度はもっと周りの特長を生かしていくようなプレーを考えている。そうすれば、自分の良さが出せているということにもなる」

 周りを生かす、つまり中村の最大の武器であるパスセンスを駆使し、細かいパス交換やスルーパス、サイドへの展開を周囲の選手に繰り出していけるかが、“トップ下・憲剛”が機能しているか否かの物差しとなる。

 そのほかにも、合宿開始直後から体調を崩したDF今野泰幸(ガンバ大阪)に代わる栗原勇蔵(横浜F・マリノス)や伊野波雅彦(ジュビロ磐田)らセンターバック候補など、いくつかのテスト要素を含んでいる。相手のタイプはヨルダンとは異なるため、あらかじめ指揮官も「この試合はヨルダンを想定したものではなく、選手たちのコンディションと調子を測るためのもの」と考えている。ならば、なおさら見どころは自分たちのパフォーマンスの是非でしかない。それはすなわち、これまで話を進めてきた選手のプレーやコンビネーションの出来の如何(いかん)が問われているということである。

 本田、長友の“飛車角”抜きの日本。特に本田がいない場合は、これまでも何かと苦戦するイメージが強かった。ただし選手の組み合わせ次第で、今の戦力ならまた違った好反応が生まれる可能性もある。勝利の方程式ではないが、選手のベストな構成パターンを複数持っていた方が、もちろんW杯本番でも大きな武器となり得る。その大舞台へのチケットを手にするために設定されたこの2試合で、現在の代表の器量が試されるというのも、ある意味悪くない流れなのではないだろうか。ピンチはチャンス。カナダ戦は、日本代表が自らの幅を広げるきっかけとなる一戦にしたい。

<了>

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著者プロフィール

サッカー専門新聞『EL GOLAZO』を発行する(株)スクワッドの記者兼事業開発部統括マネージャー。名古屋グランパス担当時代は、本田圭佑や吉田麻也を若い時代から取材する機会に恵まれる。その後川崎フロンターレ、FC東京、日本代表担当を歴任。その他に『Number』や新聞各紙にも寄稿してきた。現在は『EL GOLAZO』の事業コンテンツ制作や営業施策に関わる。

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