スポーツが復興支援で果たす2つの役割=白井耀氏が提言するスポーツのチカラとは

スポーツナビ

復興の証に東北からメダリストを

白井氏は、スポーツと復興支援の新しい方法を提案していきたいという 【スポーツナビ】

――「東北スポーツサミット2013」開催の経緯を教えてください。

 今回、カール・ルイス氏たちを呼ぼうという話になったのは、同じアスリートの為末大さんがきっかけです。為末さんには僕らのいろんなイベントに参加いただいていますが、彼と「どういう支援がスポーツを通じた本当の復興支援なのか」という話をする中で、世界レベルの人たちの技術や知識を東北の人たちにもっと伝えるのも大事じゃないかという話になりました。やはり、実質的というか、もう少し次のステップになるような支援の仕方もあるんじゃないかと思うんです。
 
 ちょうど今、体罰や暴力の問題でスポーツ界も揺れていますが、そういう部分が世界ではどうなのかを考えたり、東北のジュニアアスリートたちが20年の五輪で世界を目指すきっかけになるような指導を実際に体験してもらうために、彼らに来てもらおうと。為末さんからお願いしてもらって、3人が来てくれることになったという形ですね。

――「次のステップになるような支援」を考え始めた背景は?

 一歩、また一歩と歩みを進めていく手助けになるような本当の支援がいろんな意味で必要になっていると思います。その中で、スポーツの力がどう生かされれば良いのかということを、僕たちだけでなくアスリートの皆さんも今真剣に考えているタイミングだと思うんですよ。

 先ほどもお話ししたように、仮に東京で五輪が実現したら、そこで今の東北出身のジュニアアスリートたちが何人も活躍するという事実を作ることが、世界に対しても東北の被災地に対しても、本当の意味での「復興を成し遂げた」という証になるのではないだろうかと思います。そういう意味においては、今回はそのきっかけをつくって、来年以降は一歩一歩、東北から20年のメダリストを生んでいくことを大きな目標としていこうということですね。

――施設の整備などハード面での支援を求める声もありますが?

 僕らのプロジェクトは情報発信なんです。「こういうやり方があるよ」とか「こういうことをするとみんなが喜ぶよ」とか「スポーツの新しい楽しみ方はこうだよ」とか。そういったことを通じて解決できることってあると思っているんですよ。

 東京五輪の支持率はやっと70パーセントを超えましたが、反対の人の大きな理由は「五輪をやるお金があるなら東北の支援に回せ」ということなんです。お金をそこに回せばそれはそれでそれだけの価値でしかない。理屈は分かりますが、スポーツということで考えれば、必ずしもそれはスポーツをやる環境を支援することにはならない。それよりも、20年の五輪が東京に決まって、それまでにスポーツをまさに文化として育て上げて、東北の選手を活躍させるという意識が国全体に広がらなければならないと思います。そうすれば、おのずと今東北で苦労しているチームや団体に目がいって、企業や自治体の支援もいくでしょうから。

震災が契機となったスポーツを通じた社会貢献

――震災前、震災直後、そして2年経った現在で、スポーツの果たす役割に変化があったと感じられますか?

 これは都のプロジェクトですが、東京マラソンがありますよね。東京マラソンのチャリティ制度は、僕が前職の東京マラソン財団にいたときに企画して導入した仕組みなんですけど、この制度を導入したのがちょうど震災直前に行われた2年前の大会でした。「走るのに10万円」という設定(編注:東京マラソンのチャリティ制度では、出走するために10万円以上の寄付金を集める必要がある)を半ば強引に進めたのですが、一部には「出走権を金で買うのか?」という批判もありました。それが震災後はまったく聞こえなくなりましたし、参加者も初年度は800人くらいだったのが、2年目が1700人ほど、今年は2000人を超えておよそ2億3000万円のお金が集まりました。

 着実にスポーツを通じたチャリティの捉え方が変わってきたと思うんですね。これまで、プロスポーツの人たちが自分たちの知名度などを利用してチャリティマッチをやって集めたお金を寄付することはありましたが、日本には、一般の人たちがスポーツをやるにあたってチャリティとか何かに参加するというのがなかったわけです。それが今まさに定着してきた要因というのは、まさに震災があったからかなと。こういったスポーツを通じた社会貢献のやり方があることを、僕らは情報発信していきたいと思っています。

――今後、「スポーツのチカラ Project」として、どのような支援プロジェクトを計画中ですか?

 震災から3年目に入りますが、その中でスポーツがやるべきことは「震災を風化させない」、そして「日本をひとつにする」ということだと思います。それが実現できるイベントを今考えています。(実施は)来年の夏ぐらいでしょうか。

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