力入り過ぎた侍打線、受け身の野球が敗因に=佐野慈紀氏が解説

構成:スポーツナビ

「日本の野球」をやり通したことに大きな意義

 一方、中南米のチームは2月まで試合をしています。中南米シリーズというものがあって、プエルトリコはそこでベネズエラ、ドミニカとも戦っています。特にドミニカとプエルトリコは永遠のライバル。プエルトリコは予選でドミニカに負けていることもあって、決勝では絶対に勝ってやるという気持ちがすごく強かったと思います。日韓戦のようなイメージを持ってもらえばいいでしょうか。だからこそ決勝への思いは強かったと思う。まして、優勝候補の米国にも勝って勢いもついたでしょうし、今回ばかりはその点が少しばかり侍ジャパンを上回ったのかなと思いますね。

 ただ、侍ジャパンはこの大会で、予選から通して勇気や元気を与えてくれました。野球の楽しさも再認識させてくれました。今度はいよいよNPBのレギュラーシーズンも始まるので、そこでもう1度同じような戦いを見せてほしいですね。

 メジャーリーガーがいようがいまいが、日本の戦いは統一されていると思います。しっかりディフェンスをして、しっかりつないでいく野球は変わらない。日本のトッププレーヤーが日本の野球をしっかりやってくれたことにすごく意義があったと思います。その姿を今度はNPBで見せてもらって、メジャーで今回参加できなかった選手たちも日本の野球を学んできたわけですから、それを米国メジャーリーグという一番レベルの高い舞台で披露してもらいたいなと思います。

投手、打線ともに現時点では最高のパフォーマンス

 また、今大会の投手陣の総括ですが、シーズンベストが100だとしたら、全体的にまだ80〜90パーセントだったと思います。その中でもパフォーマンスとしてはしっかり出してくれたと思います。そこが3月開催の難しさだと思いますが、決して力を出し惜しみしたわけでもなく、調整がうまく行かなかったわけでもなく、今できる最高のパフォーマンスは出してくれたと思います。それ以上に、今回戦ってきた相手もしっかり準備ができていましたし、レベルの高い戦いだったからこそ失点もしたし、痛い目にもあったんだと思います。

 打線に関しても、調子いい・悪いはあったと思いますが、これも投手陣と同じように相手が決してレベルが低いわけではなく、高いレベルだったからこそなかなか打ち崩すことができなかった。その中で侍ジャパンはベストパフォーマンスを見せてくれたと思います。今の状態が100ではないとしたら、今後NPBに戻ってきたときにもっと高いパフォーマンスを見せてくれると考えれば、シーズンインが楽しみですね。でも、本当に日本野球の底力を見せてくれたと思います。

 また、阿部選手はチームを引っ張ろうという意識よりも、チームが1つになって戦おうというまとめ方をしたように思いましたね。何も自分ひとりが全部やらなければいけないという考えではなくて、全員に心配りができるようなリーダーシップを発揮してくれたと思います。

コミッショナー側も“戦う”姿勢を

 今後の日本代表の課題ですが、監督がなかなか決まらないとか、選考方法がどうのと言われましたが、僕個人の考えとしては、代表の人数を固定して、最終選考はやらなくていいと思います。例えば今回、ピッチャーに関して言えば、中日ドラゴンズの吉見投手が病み上がりでヒジの具合のこともあり代表を辞退しましたけど、キャンプで見たときの吉見投手は感激するくらい素晴らしいピッチングをしていたわけです。ですから、状態を見て、調子の上がらない選手と入れ替える方式の方が選手のプライドも尊重できますし、無理のない選び方のように思います。候補選手の人数を多く取って、その中から何人を最終的に選ぶというのはちょっとどうかなと思いました。

 また、運営側というか、コミッショナー側も「戦っているんだ」というところをもっと見せてほしいです。WBCで違和感なく戦うために統一球を導入したわけですけど、実際にやってみたらWBC使用球と全く違った。これってすごく恥ずかしいことです。そういう意味でも準備不足がありましたし、選手は一生懸命戦ってくれるんだったら、選手に負担をかけないような姿をコミッショナー側も含めて後押ししてほしいです。そして、国を上げて戦うんだ、世界一になるんだという意識を持ってほしいと思います。

<了>
■佐野慈紀(さの・しげき)

近鉄、中日などで主に中継ぎとして活躍。米独立リーグなどでプレーし、振りかぶった際に帽子を飛ばす「必殺てかてか投法(ぴっかり)」で場内を湧かせた。現在は野球解説者として活躍中。

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