なでしこが選手の見極めに費やした4試合=中国戦で違いを見せた中島と田中陽
チャンスをつかみかけた要因は守備
停滞する攻撃陣の中で違いを見せた中島(左) 【写真は共同】
中国戦の先発布陣は以下のとおりだ。
GK山根恵里奈
DF有吉佐織、熊谷紗季、長船加奈、加戸由佳
MF宇津木瑠美、山崎円美、中島依美、川村真理
FW大滝麻未、大儀見優季
平均年齢は23.1歳と若い。最年長は有吉と大儀見の25歳で、他のメンバーはすべて佐々木則夫監督が率いたU−19、U−20女子代表(08年と10年大会の世代)経験者だ。一方、中国も平均23.3歳と若いメンバーで臨んでいた。ボランチにアテネ、北京五輪の経験者であるベテランのプー・ウェイを起用したが、20歳のDFウー・ハイアンや17歳のMFレイ・ジヒという若手も起用されていた。両監督に、若手に国際経験を積ませたいという意図があった。
序盤はなでしこがペースをつかみかけた。要因は守備時の読みが効いたことだ。宇津木、大滝、川村真の3人で相手をサイドに追い込んでボールを奪った場面や、相手のファーストタッチの瞬間を狙って背後から体を入れた中島のプレー、加速して突っ込んでくる相手のスピードを奪う加戸のコンタクト技術などによってピンチを未然に防いだ。
なでしこの守備が機能したことで、相手はスタミナを消耗した。攻撃の途中に守備へと切り替えざるをえなくなり、結果、後ろ向きに走らされる場面が多くなったからだ。中国の選手たちは前半の途中ですでに足が止まっていた。
ちぐはぐな攻撃の中で違いを見せた2人
1つは、GKのキック精度の問題。187センチと長身の山根の素質は魅力的だが、総合的な能力評価は、現時点で「未完の大器」という印象をぬぐえない。国内リーグ(ジェフ千葉レディース所属)でも十分な出場機会を与えられているとは言いがたく、彼女にはもっと経験が必要だ。
もう1つは、「相手ゴール前を崩す」「相手DFラインの背後に進入する」というアイデアの不足だ。なでしこは大儀見にボールを預けた瞬間、攻撃のスイッチを入れるべきなのだが、周囲の選手は大儀見から大きく展開してもらうのを待ってしまった。大儀見に絡んでいくべき選手は、サイドハーフまたはボランチ、要するに中盤の選手なのだが、サイドの選手はタッチライン沿いでボールを待ってとどまった。ボランチが前線に接近する機会もなく、持ち場を離れてチャンスを作る動きが足りなかった。
その点で違いを見せようとしていた選手は、デンマーク戦と中国戦の右MFで起用された中島と、中国戦の後半に左MFのポジションを与えられた田中陽子だ。
中島は、08年のU−20女子ワールドカップに向けた最終選考でも同じようなプレースタイルを披露して、本大会のレギュラー取りに成功した選手だ。08年当時はFW岩渕真奈を常に近距離でサポートした。岩渕と中島が接近して見せたプレーは、言うなれば「足を4本使った」ドリブル。個人技が合わさった結果、その効果は2倍以上の答えを見せた。同様に中島は今大会も、攻守ともに中央に絞って、味方に絡むプレーで存在感をアピールした。今後、たとえば大儀見がくさびを受けた瞬間、そのすぐ横に走り込んで、加速した状態からドリブルを開始できたら、相手にとって厄介な存在になるのではないか。
田中陽は、第1戦のノルウェー戦と第2戦のドイツ戦ではボランチとして途中出場したが、この中国戦で起用された攻撃的MFのほうが、現在の彼女にとって適職であるように感じられた。彼女の技術、身のこなしは、相手ゴールにより近いところで披露されるほうが脅威になるからだ。