なでしこが選手の見極めに費やした4試合=中国戦で違いを見せた中島と田中陽

江橋よしのり

「予測するのが遅い」

新メンバーについて「予測するのが遅い」と厳しい言葉で激励した大儀見(右) 【写真は共同】

 佐々木監督は試合後の会見で、新戦力のアピール度について問われると、中島、加戸、田中陽の名を挙げて評価した。彼女たちが評価されたポイントは、当コラムでここまでに述べたとおりだ。しかし、彼女たちがデンマークや中国相手にできることは、国内合宿での男子高校生、大学生との練習試合である程度分かっていたことであって、新たな発見というほどのことではない。結果論ではあるが、大会開幕直前のスウェーデンとの練習試合が雨で中止になったことと、第2戦のドイツ戦も雨にたたられたことによって、骨のある相手をものさしにした「なでしこらしさ」の検証が不発に終わったことは、残念でならない。

 結局、なでしこジャパンは「戦える選手」と「適材適所」の見極めに1大会を費やした。「今年1年間は、国内リーグも含めて、選手に成長を促す期間」と佐々木監督が語るとおり、今後は別のメンバーも起用しながら、同様に戦力を模索していくことだろう。今大会に招集されなかった選手の中にも、基礎的なスキルの高い人材は豊富にいる。だが、ロンドン五輪組・海外組も成長の足を止めて待っていてくれるわけではない。中国戦の後、大儀見は次のように語った。

「(熊谷や宇津木から)縦に長いボールが(私のところに)入ってくると予測するのが遅いので、MFのサポートが遅れてしまう。互いの動きが重なってしまうぐらいでもいいから予測して動くことが必要となるので、チームメイトに伝えるようにしていきたい」

 この言葉が意味するのは、「世界基準」「国際競技力」という観点に立てば、現時点でチーム内に大きなギャップがあるということだ。そして海外組が成長を止めない以上、今後その溝はさらに広がると考えるほうが自然だ。国内でプレーする新戦力候補の成長戦略をいかに描くのか。それは代表チームの監督・コーチ陣だけに頼り切るわけにはいかない。新戦力候補にとって「なでしこジャパンに入ること」は、もはや「世界王者基準の選手になること」と、ほぼ同意なのだ。

 なお、中国戦と同会場で行われた決勝戦、ドイツ(A組1位)対米国(B組1位)の試合は、FWモーガンの2ゴールとGKバーンハートの好セービングによって、米国が優勝を果たした。ドイツは、若い守備陣の乱れが失点につながったが、攻撃の面ではゴール前で複数の選手が絡むシーンが見られ、進化を感じさせた。大会中、ドイツの女子ブンデスリーガ監督陣が、なでしこジャパンの練習を見学し、佐々木監督からレクチャーを受ける機会も設けられた。ドイツは女子サッカーを技能的に進化させ、魅力を高める姿勢を示している。今夏、ドイツが6連覇を懸けて挑む欧州女子選手権(女子ユーロ)で、世界の女子サッカーに新たなトレンドが見つかるかもしれない。

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著者プロフィール

ライター、女子サッカー解説者、FIFA女子Players of the year投票ジャーナリスト。主な著作に『世界一のあきらめない心』(小学館)、『サッカーなら、どんな障がいも越えられる』(講談社)、『伝記 人見絹枝』(学研)、シリーズ小説『イナズマイレブン』『猫ピッチャー』(いずれも小学館)など。構成者として『佐々木則夫 なでしこ力』『澤穂希 夢をかなえる。』『安藤梢 KOZUEメソッド』も手がける。

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