進化示した木崎、次世代エースへ名乗り=名古屋に見た日本女子マラソンの光明

折山淑美

本当の日本のエースになるために

野口(右)は復活の走りで3位に入り、木崎とともに表彰台に上った 【写真は共同】

 だがこのレースはペースメーカーがうまく機能して絶妙の展開になった上、例年吹く強い風もなく、気温もレースが進むに連れて下がるという好コンディションだった。さらに招待された外国選手も2時間23〜24分台が精一杯の選手たちで、ペースメーカーが外れてからはちょうど良い目標になったという好条件もある。そういった諸条件を考えれば、もう少し速い記録をという思いも出てくる。派遣設定記録を突破したとはいえ、まだまだ世界とは戦えないというのが正直なところだろう。

 今回の木崎の走りを見る限りは、ロンドン五輪から半年強での進化は認めるべきだ。これまで2時間26分32秒だった自己記録を、約3分縮めたのは評価できる。
 それでも、これから世界と戦うとなれば、もうひと皮剥けなければならないだろう。そのひとつは、かつての日本女子選手が常識と考えていた、5キロ16分40秒くらいのペースにも恐怖を感じることなく挑戦できるまでになることだ。振り返れば、99年の東京国際女子マラソンで優勝した山口衛里は、最初の5キロを16分24秒で入り、20キロまでは16分33秒以内のラップを刻んで2時間22分12秒をマークした。山口の1万メートルの自己ベストが32分台だったことを考えれば、自己ベストが31分38秒71の木崎が同様のレース運びをすることは十分過ぎるほど可能だ。

 木崎がそんなレースできるようになってさらなる自信を持つためにも、海外のマラソンで2時間20分突破を狙うようなペースで入るレースを経験することも必要だろう。そういうことができてこそ、本当の日本のエースとなれるはずだし、誰もがそれを待ち望んでいることだ。11年の横浜国際女子マラソンに続いて勝利をあげた木崎だからこそ、次への挑戦を期待したくなるのだ。

野口が好走 日本女子マラソン復活に期待

 一方、かつてはそんな攻めのレースを幾度としていた野口が、故障も癒えてスッキリ走れたことで、ようやく次のステップに向かえる状況になったと言える。35キロ過ぎからは失速して2時間24分05秒の3位にとどまったが、その理由のひとつには、1月中旬の都道府県駅伝を直前の体調不良で欠場し、予定していた大阪国際女子マラソンを回避するというアクシデントの中で、うまく40キロ走を組み込めなかったこともあるだろう、と指導するシスメックス・広瀬永和監督は分析する。
 そして野口も「40キロ走は足りませんでしたが、大会直前は10キロや20キロのハイペースでも、練習は全盛時と同じようにできていました。それで自信を持って強気な走りができました」と言うように、思い切り挑戦できたことは大きい。

 条件は違うとはいえ、記録的にも大阪国際女子マラソンで日本人トップになった福士加代子(ワコール)の記録を16秒上回り、世界選手権代表も有力になった。「もう一度日の丸をつけて走るのが目標でした」という彼女は、それを実現することでまた新たな力を得て、完全復活への道を歩みだせるはずだ。

 木崎に加えて復活した野口が今後、ほかの日本選手の大きな刺激になるような走りをすることこそが、日本女子マラソン復活への足掛かりになるはずだし、そうなることを願いたいというのが正直な気持ちである。

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著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

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