広島に必要な“エース以外の得点源”=佐藤対策をいかにかいくぐるのか

中野和也

選手の不在に大きな影響はないが

各チームとも佐藤(中央)対策は必ず仕掛けてくる。エース以外の得点源も必要だろう 【写真は共同】

 2013年のJリーグが3月2日に開幕し、前年王者のサンフレッチェ広島は浦和レッズにホームで1−2と敗れた。

 広島の完敗。一言でいえば、そう総括できる試合であった。

 浦和ももちろん、強かった。1トップに入った興梠慎三がしっかりとボールを納め、2列目に入った柏木陽介や原口元気の質の高さを引き出したことは、昨年までの浦和にはなかったこと。赤の軍団にとって大きな手応えを感じた試合内容だったと言える。

 一方の広島は、流れの中でほとんどチャンスを創れなかった。特にエース・佐藤寿人のシュートは右サイドからのアーリークロスに飛び込んだボレーのみ。ほぼ完封されたに近かった。

 森脇良太、永田充、槙野智章の3バックは広島の1トップ2シャドーにほぼマンマークで付いた。足下へのクサビに対して万全のケアを施した上に、ロングボールの起点である青山敏弘に対しても、厳しい監視体制を敷いた。広島のシステムだけでなく、選手個々の個性まで完ぺきに知り尽くしたミハイロ・ペトロヴィッチ監督ならではのやり方だ。

「高萩洋次郎がいれば、違っていたのでは」。試合後、多くの記者がそう話しかけてきた。もちろん、攻撃に変化とアイデアを持ち込める高萩の不在は、広島にとって痛い。石原直樹も高い能力を持っているが、彼の本質はストライカー。昨年も7得点中5得点が1トップで起用された時に生み出したもので、攻撃の構築よりもフィニッシュに能力を発揮できるタイプだ。万能型の森崎浩司もいるが、彼の本質は飛び出しが得意なシューター。右内転筋を傷めたパッサー・高萩の不在が、広島の攻撃に影響を与えなかったはずがない。

 だが昨年秋、浦和が同じようなやり方で広島の攻撃を封じた時には、高萩もミキッチもいた。その時はフィジカルの強さとドリブルに特長を持つ石原がいれば、と思ったものだが、現実は違っていた。つまり、浦和の広島対策に対して、選手の不在うんぬんに大きな影響はない。構造上の問題として、取り組まないといけないのである。

浦和が選択した佐藤対策

 佐藤は、自分でボールを持ち運んでフィニッシュに持ち込むタイプではない。かつてのゲルト・ミュラー(ドイツ)やパオロ・ロッシ(イタリア)、さらに彼が敬愛するフィリッポ・インザーギ(イタリア)のような、まさに「This is STRIKER」と言うべき選手。ゴール前で圧倒的な迫力を持つ彼の特性を生かすには、いかにしていいボールを佐藤に供給できるか。もう一つは、いかにして彼をゴール前にポジションをとらせるか。ここにかかっている。

 屈強なDFのマークだけなら、佐藤はモノともしない。ゼロックス・スーパーカップ(以下、ゼロックス杯)で見せたDFの視界から消えて鋭く飛び出す絶妙な動きは、分かっていても抑えられるものではない。ぴったりとマークに付かれてもそこをはがし、ゴール前に飛び出したシーンは山ほど見てきた。

 だが浦和は佐藤だけでなく、パスの供給元まで監視を付けた。それは昨年の柏レイソルも敢行した策であり、広島の攻撃の生命線であるパスワークそのものを封じた。佐藤がマークを外そうにも、パスの供給元がいい形でボールを持てなければ、DFが彼から目を離すこともない。

 佐藤へのボールの供給源である2シャドーやボランチを封じても、広島にはサイドがある。ペトロヴィッチ監督はワイドな攻撃を封じるために、昨年の柏のように引いて守るのではなく、攻めてつぶす策を選択した。試合開始から宇賀神友弥と槙野智章のコンビで石川大徳、塩谷司ら広島の右サイドを徹底的に封殺。同時に逆サイドの梅崎司がクロスに飛び込んでくることで、清水航平のドリブルも無力化した。

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著者プロフィール

1962年生まれ。長崎県出身。広島大学経済学部卒業後、株式会社リクルートで各種情報誌の制作・編集に関わる。1994年よりフリー、1995年よりサンフレッチェ広島の取材を開始。以降、各種媒体でサンフレッチェ広島に関するリポート・コラムなどを執筆。2000年、サンフレッチェ広島オフィシャルマガジン『紫熊倶楽部』を創刊。近著に『戦う、勝つ、生きる 4年で3度のJ制覇。サンフレッチェ広島、奇跡の真相』(ソル・メディア)

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