プロ17年目の中村俊輔が挑む2大テーマ=輝きが色褪せない稀代のファンタジスタ

元川悦子

2大テーマはタイトル獲得と2ケタ得点

タイトル獲得と得点量産が2大テーマとなる。得意のFKなどで初の2ケタ得点を挙げることはできるのか 【写真:北村大樹/アフロスポーツ】

 海外から帰ってきた中村は、Jリーグの進化を実感する部分があったという。

「Jリーグも20年たって戦術的にかなり変わった。負けないサッカーをするチームが増えている分、個人が前に出て行きにくくなって面白くないって見方もあるかもしれないけど、良い方向には進んでいると思う。そういう進化があるからたくさんの日本人選手が外に出て活躍できるようになったんじゃないかな。

 リーグ全体のレベル差もなくなって、ホントに何が起きるか分からない。実際、去年はガンバがJ2に落ちたでしょ。実はヤット(遠藤保仁)に『チームを落とさないために守れ』と言ったけど、ヤットは監督と話してガンバスタイルを貫くことも決めたみたい。そんな意外な出来事が起きるほど、実力が拮抗(きっこう)しているってことなんだよね」と中村はJリーグで勝つことの難しさを再認識したようだ。

 古巣復帰から4年目を迎えた今季、彼に託された命題は、横浜FMにリーグタイトルをもたらすことだろう。ジュニアユース時代から愛情を注ぎ続けたこのクラブで優勝カップを掲げたのは、後にも先にも、00年第1ステージの1回だけ。岡田武史監督体制でリーグ連覇を果たした03−04年は不在だったため、中村自身はJリーグ年間タイトルを手にしたことがない。年間得点数も98年の9点が最高で、2けたゴールの経験はない。35歳になる13年は自らのゴール量産とJ1優勝という2大テーマに挑むことになる。

 幸いにして、開幕を目前に控えた現在の状態は悪くない。昨年は肺炎で入院を余儀なくされてキャンプに参加できず、調整が著しく遅れた。開幕当初は息が上がって90分フルに走ることさえ困難だった。しかし今年は順調にフィジカルコンディションを上げており、練習試合でも広いエリアを献身的に走ってボールに絡んでいた。「俊さんは責任感がすごく強いから、練習試合でも頑張って下がって守備をすることが多い」と4−4−2システムで右のコンビを形成する小林祐三も敬意を表していた。

「そんな俊さんをなるべく下がらせずに、僕とかボランチがサポートして前の良い位置でオフェンスの起点になってもらうことがチームの勝利につながる。俊さんの良さをできる限り生かせるようにしたいですね」と小林が語るように、チームとしていかに俊輔を高い位置で自由にプレーさせられるか。得点機に絡む仕事をさせてあげられるか……。そこが横浜FM躍進の大きなカギになるだろう。

求められる若手の底上げへの貢献

 就任2年目の樋口靖洋監督は昨季途中から採用している4−2−3−1に加え、4−4−2システムを併用すべく、目下、チャレンジを重ねている。マルキーニョスと新加入の藤田祥史を前に並べることで、より相手の背後を突けると考えているからだろう。3月2日の開幕戦で対戦する湘南ベルマーレのようにリスクを冒して高いラインで挑んでくる相手には、確かに2トップは有効と言える。中村もそんな指揮官を意図をくみ取りながら、チームメートとの連係を高めている。昨季の横浜FMは開幕からリーグ戦7試合勝ちなしで、序盤戦の迷走が最後まで響く形となった。その教訓を糧にして、良いスタートダッシュを切れれば、上位争いも可能なはず。そういう意味でも、湘南との今季初戦は極めて重要だ。

 目前に迫った13年シーズン開幕に向け、中村自身が懸念するのは、スタメン組以外の選手とのコンビネーションが確立されていないことだという。樋口監督は主力とそれ以外をハッキリ分けて実戦形式に取り組むことが多く、中村らが控え組と一緒にプレーする機会が不足している様子なのだ。

「ボンバー(中澤)か勇蔵(栗原)がケガをしたら、カンペイ(富澤)を下げて(熊谷)アンドリューを入れるとか、(小林)祐三のところに天野(貴史)を入れるとか、新加入の(佐藤)優平を中盤で使うとか、もっとバリエーションを増やしていく必要がある。アンドリューなんかは今年一番伸びてもらわないといけない若手なのに、俺自身もあんまり指示するチャンスがないよね……」と彼は不安を口にする。

 前述の通り、今季の横浜FMは主力と控えの力の差があるだけに、中心選手が1人、2人と負傷やコンディション不良で離脱した場合、窮地に陥りかねない。年齢層の高い選手が多いだけにそのリスクは高い。樋口監督は「若い選手たちも十分に力がある」とは言うものの、端戸仁や喜田拓也ら20歳前後の若手をフル稼働させられる保証はない。ベテランに頑張ってもらいながら、若手の底上げをうまく図れれば、上位躍進への希望が見えてくる。発展途上の選手たちに長年の経験を伝え、刺激を与えることも中村の大きな仕事と言えるだろう。
 
 46歳になった今もプレーしている三浦知良(横浜FC)を筆頭に、Jリーガーの現役年齢は上昇の一途をたどっている。中村がその領域まで到達できるかどうかは定かではなが、当面はトップレベルで走り続けられるはず。その間に悲願のタイトルと2けたゴールを何としても手に入れてもらいたいところだ。MVP獲得から13年が経過した今もJリーグのスターに君臨する稀代(きだい)のファンタジスタの一挙手一投足が今季も楽しみだ。

<了>

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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