CEOが語る新潟バルセロナの“志”=サッカーを言語として人を育てるクラブ

是永大輔

「サッカー留学=プロサッカー選手」ではない

プロサッカー選手になることだけを目標せず、サッカーを言語としてとらえ人材を育てるアルビレックス新潟シンガポール 【写真は共同】

 さて、一方のアルビレックス新潟バルセロナである。こちらは「世界で戦う日本人を育てる」ことを目的としている。前述のアルビレックス新潟シンガポールのそれとは、「サッカー選手」と「日本人」という部分で異なる。

 チームのコンセプトは日本から18歳以上の留学生を受け入れ、1シーズンを通してチームとして戦いつつ、スペイン語の学習、取材研修、企業研修、講演会などを行う総合的な留学プログラムとなっている。もっとも、将来的には大きな転機があるかもしれない。

 今シーズンから参加するカタルーニャ州4部リーグはバルサやレアル・マドリーのプリメーラディビションから数えると8番目のリーグに当たる。全国4部リーグ以上は「プロあるいはセミプロのチーム」という条件が求められるため、順調に勝ち上がれば、当然、今のような留学制度は継続できず、そのときになればトップリーグの頂点を目指すチームへと変ぼうを遂げるかもしれない。

 従って、現時点での取り組みはサッカー留学となる。しかしながら、数多あるほかの留学プログラムのように「ヨーロッパでプロサッカー選手になろう!」という、うたい文句とは一線を引いている。説明会でも「それは果てしなく難しいこと。あなたの目的がそれならウチには来ないでください」と伝えている。
 
 一般的なサッカー留学プログラムの留学生たちは「ヨーロッパでプロサッカー選手になる」ために海を渡っているという意識が強い。そのため、言語学習にかける時間は日を追うごとに減り、日常会話すらままならない。大金を支払って送り出した親御さんの「留学すればせめて言葉は覚えて帰ってくるだろう」との思いは多くのケースで裏切られる。

 また、本来の目的であるサッカーの環境でさえ不安定である。「有名クラブと提携」とうたっている留学あっせん会社がいくつかあるが、わたしがそのクラブの人と会って直接確認したところ、そんな事実は知らないという返答が返ってきた。よって、有名クラブへの夢を持って来た留学生は、彼の意図しない下部リーグのクラブへとお金を払って練習参加することになってしまう。そうなると、そのクラブは彼からの収入が途絶えるのを嫌うため、プロ契約にたどり着くこともない。そんな仕組みが蔓延しているのだ。

 このように、目的が何一つ達成されない現状に強い問題意識を感じたのも、アルビレックス新潟バルセロナを立ち上げた理由である(もちろん、優良な留学あっせん会社も全くないわけではないことは付記しておく)。

日本の将来に貢献する人材を

 日本は少子高齢化によって、現在1億2,000万人程度の人口が、2050年には9,500万人へと激減していくと予想されている。このままでは日本の経済規模が縮小していくことは火を見るより明らかだ。同時に、これからの日本人は、否が応でも世界に巻き込まれなければならない状況となる。その一方で、次代を担うべき若者が海外に対して恐怖心や嫌悪感などの印象を持っているとも聞く。そうすると、このギャップを埋めていける人材こそが、日本の将来に大きく貢献する人材だとわたしは確信している。

 そして、世界と戦うために最も必要となるのは、言語を含めたコミュニケーション能力である。情熱や表情、少々のウィットに富んだ態度。それらに加えて、共通の体験、これは主にスポーツでの体験があらゆるシーンで生きてくる。すなわち、世界で最も多くの人が接しているサッカーというスポーツは、“サッカー語”とでも言うべき世界の共通言語なのである。プレーでも、知識でも、経験でも、スペインでサッカーをしてきた事実は「使える」のだ。

 それに加えて、言語である。例えば、スペイン語とその兄弟言語であるポルトガル語にフォーカスしよう。これらを生活言語としている人々は世界中に約8.2億人もいる。世界の人口の約13パーセントである。しかし、日本でこれらを生活言語として使用できるレベルの人々は0.1パーセントに満たない。この差分、12.9パーセント以上のチャンスを逃しているとは考えられないだろうか。日本の将来は、ここにも関わってくる。

 だからアルビレックス新潟バルセロナでは、スペイン語、サッカー語という2つのグローバルな言語を習得することを大きな主眼としている。「いつか世界で活躍したい」という留学希望の選手たちから、問い合わせがひっきりなしに来ている。そのたびに、日本とスペイン、そして将来はアジアとヨーロッパをサッカーという言語でつなぐ、日本に貢献できる組織になれるのではないか――。

 わたしは、確信を持ちつつある。

<了>

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著者プロフィール

1977年生まれ。日本大学芸術学部卒。IT企業に入社後、モバイルを中心としたサッカービジネスに携わり、日本最大の有料サッカーメディアを作る。サッカージャーナリストとして日本代表および海外サッカークラブの試合を取材しながら世界各地を周った。一方でFCバルセロナ、マンチェスター・ユナイテッド、リバプールといった海外クラブとのビジネスも立ち上げた。アルビレックス新潟シンガポールチェアマン兼CEO。シンガポールサッカー協会理事。アルビレックス新潟バルセロナプレジデント。個人ブログ(http://www.korenaga.ws)、Twitter ID(_kore_)

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