永井謙佑のベルギーでの可能性と勝算=韋駄天FWは再び旋風を巻き起こせるか

今井雄一朗

海外移籍で再び“ゾーン”が現れるか

ロンドン五輪では永井(右)は持ち前のスピードで世界を驚かせた。ベルギーで再び旋風を起こせるか 【Photo:Getty Images】

 もう一つ永井に期待したいのは、昨年6月に見せた爆発的なプレーの再現だ。各年代の日本代表に選ばれながらも、世界大会の出場を逃し続けてきた永井にとって、ロンドン五輪は何としても出場したい大会だった。彼はU−23日本代表不動の主力ではあったが、選ばれたい一心で集中力を極限まで高め、“ゾーン”とも言える状態を自ら作り出した。その結果、6月に行われたJリーグの4試合で6得点のゴールラッシュを見せ、見事代表に選ばれた。この時の永井ならば、ベルギーリーグどころか三大リーグでも通用するのではないだろうか。

 ただし、その再現へ向けたハードルは低くない。昨年の永井のシーズン成績を見れば一目瞭然だ。12年のリーグ戦で挙げた10ゴールのうち、5月までの12試合で2得点、7月以降の18試合で2得点と、6月の爆発に比べるといささか寂しい成績だ。後半戦は五輪での負傷が影響しているとはいえ、それを差し引いても落差が激しい。永井には何度も「あの時のようなプレーを期待しています」と声をかけたが、「ああいう研ぎ澄まされた感覚でやるのは大事ですね」と答えるも、結局最後まで“ゾーン”には入れなかった。「突き動かしてくれる何かがあった方がいい」と言う永井だが、チームの低迷やACLの出場権争いは、残念ながら彼を突き動かすものにはなりえなかったように見える。

 そこでスタンダールへの移籍だ。これが永井の中で五輪と同等の重要性を持つ出来事であれば、再び“ゾーン”が目の前に現れることも期待できる。永井にとって海外移籍はプロ入り前から望んでいたことだ。「2年間とても楽しかった」と言う名古屋での生活を捨て、慣れ親しんだチームメートと別れてまでも、かなえたかった夢である。実は大学卒業後すぐにでも行きたかったところを、名古屋の久米一正GMに「まず2年ぐらいはストイコビッチ監督とやってみないか」と説得され、Jリーグでプレーを始めた経緯があった。それだけに決意は強い。

背番号13を選んだ理由

「しっかりゴールを決められるストライカーになりたいですし、1点でも多く取って、自分の名前を世界に知らしめたいです。将来的にはワールドカップに出ることが目標ですし、まずはヨーロッパのサッカーに慣れることも重要なので、しっかりとベルギーリーグで戦って、その後はもっと大きなリーグで戦っていきたいと思います」

 もっと大きなリーグとは、イングランド・プレミアリーグのことだと言われている。ロンドン五輪で試合をしたサッカーの母国のファンたちの反応を楽しそうに振り返る時、永井は実にいい笑顔を浮かべていたことを思い出す。

 新たなスタートとなるスタンダールでの背番号は13に決まった。空いている番号には9もあったというが、選んだ理由がまた永井らしくて笑えてしまう。

「なんかしっくりこなかったんです。今まで9番ってつけたことなかったですし。18番もなかったので、まあ、20『13』年ってことで決めました。あと、結婚式も13日だったので(笑)」

 軽い! いや先に結婚式の話だろと周囲の記者からツッコミが入ったのは言うまでもない。やはり天然なのだ。永井がベルギーで輝くかどうかは未知数である。しかし、少なくとも本人に気負いはない。

「得点は1点目を取れればポンポンと取れるかなと思います。問題は1点目をいつ取れるかです。そこを最短でいきたいです。いつも時間がかかるので(笑)。スイッチ入るまでが長いんです」

 ならば期待するのはデビュー戦でのゴールしかない。それができれば日本最速ストライカーはロンドン五輪同様、ベルギーリーグでも旋風を巻き起こせるはずだ。

<了>

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著者プロフィール

1979年生まれ。雑誌社勤務ののち、2015年よりフリーランスに。以来、有料ウェブマガジン『赤鯱新報』はじめ、名古屋グランパスの取材と愛知を中心とした東海地方のサッカー取材をライフワークとする日々。

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