理想を追うグアルディオラが選んだ道=バルセロナを揺るがす2つの出来事

フットボール界を揺るがした価値のある決断

グアルディオラのバイエルン監督就任はサッカー界に大きな衝撃を与えた 【Photo:Getty Images】

 ミランとのチャンピオンズリーグ(CL)決勝トーナメント1回戦を迎える2月へ向けて、チームがパフォーマンスを上げてきた矢先のことだった。わずか1週間のうちにバルセロナを揺るがす2つの出来事が生じた。

 1つはバイエルン・ミュンヘンが公表した、ジョセップ・グアルディオラの監督就任だ。このニュースはフットボール界に大きな衝撃をもたらすとともに、バルセロナの地盤を大いに揺るがした。バイエルンのカール=ハインツ・ルンメニゲ会長はそのインパクトの大きさを考慮し、発表の4時間前に良好な関係を保っているバルセロナのサンドロ・ロセイ会長に電話で先に報告を入れたほどだった。

 グアルディオラは世紀のフェイントを仕掛け、あらゆるメディアを見事にだましてくれた。なにせ彼はわずか1週間前、ニューヨークから訪れたFIFA(国際サッカー連盟)バロンドールの受賞式にて、バイエルンとはいかなる合意にも達していないとコメントしていたのである。それはグアルディオラとの接触を否定したバイエルンのスポークスマンも同様だった。

 しかしながら、その後いくつかのメディアには、グアルディオラがバイエルンと契約を前提にした合意に達したこと、彼が2016年6月までの3年契約を結び、早くもドイツ語を学びはじめたこと、そしてアウディカップの最中にバイエルンの練習施設を見て回っていたことなどの情報が漏えいしはじめた。

 今回グアルディオラが下した決断は、4シーズン(08〜12シーズン)監督を務めたバルセロナの退団を決意した時と同じくらい重要なものだ。マンチェスター・ユナイテッド、マンチェスター・シティ、チェルシー、ミラン、インテルなど、エリートクラスのビッグクラブから幾多(いくた)のラブコールを受けていた彼は、金よりフットボールのプロジェクトを選んだ。それは現代のフットボール界において非常に価値のある決断である。

理想を叶える場所を与えたバイエルン

 グアルディオラはアラブの王族や大富豪がもたらす高額の年俸より、真剣でポテンシャルがあり、堅固で競争力のあるチームでの仕事に熱意を感じたのだ。そして彼は、プレミアリーグやセリエAより、ブンデスリーガに価値を見いだした。それは現在のヨーロッパフットボールの現実を指し示す、良い教訓だと言える。

 グアルディオラとバイエルンが織りなすカクテルがどのような結果をもたらすかは時間の経過とともに分かることだが、現時点ではお互いにとってメリットの大きい契約であるように思える。昨季すでにCL優勝に手をかけたチームにとって、グアルディオラは理想的な監督である。昨季の決勝では終了間際の失点でチェルシーに追いつかれ、PK戦の末に涙をのんだものの、彼らには再び優勝を目指すに十分な戦力が整っている。

 バルセロナでもそうであったように、再びグアルディオラはフランツ・ベッケンバウアーやルンメニゲ、ウリ・ヘーネス、マティアス・ザマーら多くの元名選手が運営に関わる、伝統高きクラブで働く道を選んだ。

 これらの条件を持つバイエルンは、プレミアリーグで指揮をとるという誘惑に負けず、現代ではほとんど見られなくなった「フットボールを進化させる」という理想主義に再び傾倒したグアルディオラにとって、理想的なクラブだと言える。

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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