福原愛と石川佳純、歴史に残る2強時代=卓球女子の勢力図は変わらず

小川勝

決勝は2年連続で福原と石川が激突

ロンドン五輪銀メダルの3人組。リオ五輪へ向け、福原(右)と石川(中央)の2強時代は続く。平野(左)は復活なるか 【写真は共同】

 その一方で、五輪の後、長いブランクを経て、この大会が本格的な復帰戦でもあった福原、石川の2人に関しては、すべての懸念は杞憂(きゆう)だったと言える。
 福原は、準決勝にたどり着くまでの4試合は4−0か4−1の快勝。石川は準々決勝前の6回戦で、カット主戦型の根本理世(中中大)に少し苦しんで4−2の勝利だったが、準々決勝は4−0。2人とも準決勝までは危なげはなかった。

 準決勝はいずれも激闘だった。
 福原は、この大会準優勝3度のベテラン、30歳になった藤井寛子(日本生命)に4−2だったが、第5ゲームまではデュースを含む激しいつばぜり合いの連続。第1、第2ゲームで、いずれも終盤、一度は藤井にリードされながら、逆転でものにしたのが大きかった。

 石川は、準決勝で新鋭の松澤茉里奈(淑徳大)と当たった。大学3年の松澤は、学年で言うと石川より1つ上になるが、過去最高はベスト16。今大会、最も躍進した若手選手だった。バックハンドからのサーブが独特で、回転が非常に読みにくい。試合の前半は松澤ペースで、石川はゲームカウント2−3とリードされ、迎えた第6ゲーム、7−9となって、崖っぷちに追い込まれた。
 しかし、そこからが石川の実力だった。サーブからの3球目を強打、そして相手のロングサーブを思い切って強打するなど、崖っぷちの中、自分から攻める鮮やかな攻撃を次々に決め、11−9でこのゲームを奪うと、第7ゲームも取って、結局、逆転勝ちした。本当の勝負どころで、自分から決めにいく決断力と、プレーの正確性は、やはり石川が一枚上手だった。

 2年連続で同じカードとなった決勝は、昨年とは違って、石川が先手を取って、福原が追う形になった。
 ゲームカウント2−2となっての第5ゲーム、8−8というまったく五分の状況から、ラリー戦を制して福原が3ポイントを連取。ここから、流れは福原に変わった。昨年は、「今年勝てなければ、もう勝てないんじゃないかという気持ちだった」という福原が、石川のサーブに対して、ほとんどすべて強打で勝負に出るという、驚くべき攻撃的な戦略を取って、それが奏功した。しかし今年は、しばしばラリー戦に持ち込み、打ち合いを制した。

新戦力か平野の復活か、3人目の選考が課題に

 2連覇を決めた後、福原が語った言葉が印象的だった。
「五輪が終わって、肘を手術して、今回、どれだけ勝てるかによって、どれくらい戻っているかが分かると思っていたので、帰って来れたっていう気持ちでいっぱいです。練習を始めたとき、手術をする前だったら、できなかったような動きもできるようになっていたので、うれしくて、いっぱい練習しちゃいました。今大会は、手術の後だったので、出場している選手の中で、一番プレッシャーが少ない選手だと思って臨んで、伸び伸びとプレーできて、それが優勝につながった。こういうプレーの仕方もあるんだなと思って、自信につながりました」

 福原が過去、国際試合では実績を残しながら、なかなか全日本選手権では勝てなかった理由の一端が、この言葉から理解できるように思う。昨年も「全日本選手権は、私にとって一番緊張する大会」と語っていたが、やはり、問題は心理的なプレッシャーだったということだ。プレーのレベルは優勝にふさわしいものであり、それがいかんなく発揮されると、今年のような結果になる。

 しかし石川も、敗れたとはいえ、一昨年の初優勝の後、2年連続の準優勝。福原との実力差は、わずかなものだ。決勝でもたびたび披露した、フリック(相手のサーブを払うようにラケットを返して打ち返す技術)による得点は、石川ならではの圧巻のテクニックだった。
「リードしたときに守りに入ってしまったかなって。なかなかサーブから攻めていけなかった。焦って、体が突っ込んで、粘って点数を取ろうとするよりも、早く決めたいっていうプレーがたくさん出てしまったので、そこがすごく反省すべきところ。でも、去年よりはいい試合ができたと思います」

 福原、石川が今後も日本女子の卓球界をけん引していく。3人目の代表としてロンドン五輪を戦った平野が今回、初戦敗退を喫したことで、福原、石川に続く選手の選考が、課題として浮かび上がった。今大会の試合内容から見れば、準決勝に進出した藤井か松澤になるが、松澤は昨年まで、国際試合よりも、インカレや全日本学生選抜、関東学生リーグといった大学生の大会に重点を置いて出場している。彼女に今年から国際経験を積ませるのか、手堅いベテラン・藤井の力を評価するのか、あるいは平野の復活を含めて、もう少し時間が必要なのか。

 ただ、現在の日本卓球界では、福原、石川という歴史に残る選手が、今まさにそのキャリアの絶頂期において活躍している。そのことだけは、間違いないように思う。

<了>

2/2ページ

著者プロフィール

1959年、東京生まれ。青山学院大学理工学部卒。82年、スポーツニッポン新聞社に入社。アマ野球、プロ野球、北米4大スポーツ、長野五輪などを担当。01年5月に独立してスポーツライターに。著書に「幻の東京カッブス」(毎日新聞社)、「イチローは『天才』ではない」(角川書店)、「10秒の壁」(集英社)など。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント