選手権に見る日本とオランダの育成の違い=当然過ぎて気付かない高校サッカーの利点

中田徹

増える選択肢 志向するサッカーで選ぶ進路

優勝した鵬翔は地元にセントラルFC宮崎というジュニアユースのチームを持つ 【スポーツナビ】

 欧州のサッカー大国が、日本の高校サッカーシステムを採用することはないだろうが、日本の高校サッカーが欧州のクラブシステムからいいとこ取りすることはできる。中高一貫校は6年に渡るジュニアユース/ユースの育成の場としてとらえられる。鵬翔(宮崎)のように、地元にジュニアユースのクラブチームを作るところも増え始めている。

 かつて、とりわけ地方の場合は、長崎なら島原商、鹿児島なら鹿児島実と強豪校があり、サッカーのうまい中学生の進学先も自ずと決まっていた。しかし、今はどの県も実力の拮抗(きっこう)した学校が競り合っており、子どもたちの選択肢が増えている。彼らの進学理由を聞いてみると、「県内一の名門であこがれていた」、「サッカーも勉強も両立できる」といった昔ながらのものもあるが、「まだ全国には出たことがないけど、テクニック重視の学校で、練習に参加してみたら雰囲気も良かった」、「守りを一生懸命やる学校で、僕の性格と合った」など、サッカーのコンテンツで選んでいる選手がとても多かった。

 個人的には2004年度(第83回大会)の津工業(三重)が衝撃的だった。トップ下の加藤祐也が159センチ、センターFWの菊地光輔が160センチというサイズの小さなチームだったが、徹底したつなぎのサッカーで三ツ沢球技場をどよめかせた。このサッカーは三重県のトップ校、四日市中央工の激しいプレッシングを交えたサッカーと対極的なもの。そのサッカーによって彼らは07年度(第86回大会)、ベスト4に進出。一方、四日市中央工も11年度(第90回大会)、選手権準優勝という素晴らしい結果を残した。こうしたサッカー部のキャラクターの差別化は、ほかの県でも起こっている。

日本独自の指導を見出した高校サッカー

 高校サッカーには今も昔も批判がある。かつては高校サッカーが日本サッカー界一のビッグイベントだったため、そこでピークを迎える選手が続出し、燃え尽き症候群と呼ばれた。フィジカル重視のチームが強すぎた時期もあった。選手権に限らず、この年代はトーナメントが多いため、勝利至上主義も問題になったし、弱小校は公式戦が少ないという問題もある。出場機会の少ない選手にとって、移籍が難しいシステムでもある。また、最近はリーグ戦ができたのは良かったものの、そのため試合数過多に悩まされている学校も出てきた。

 今回の選手権を取材し、個人的にはGKとサイドバックの、ビルドアップ能力の低さが気になった。しかし、その弱点は天皇杯(ガンバ大阪を除く)や全日本大学選手権を見ても感じたこと。これは高校生の問題というより、日本サッカーの問題だろう。また、Jリーグの下部組織にタレントが流れることによって高校サッカーのレベル低下が言われて久しいが、僕はチームの個性のぶつかり合いにかつてのスターの祭典と違った楽しみを見いだしている。
 
 毎回、感心するのは、高校サッカーの指導者は、ユース育成のエキスパートたちであること。野心にあふれる指導者は、育成年代をどうしても自分のステップアップに利用しがちだ。それが必ずしも悪いこととは言わない。しかし、少年サッカーから高校サッカーは、その年代特有の育成方法がある。この年代の指導者はエキスパートであるべきなのだ。

 実践学園(東京)は「心のサッカー」を掲げた。オランダ人には抽象的すぎて、彼らがそれをサッカーの指導に取り入れることはないだろう。しかし、日本人なら、「ああ、もしかして、それはサッカーというスポーツをちゃんと両手で丁寧に扱うことを指すのかな」、「もしかして、それはサッカーというスポーツ以外の何かも大事に育むことによって、競技力の向上に反映させていくのかな」と想像力がわく言葉である。日本人にはこうしたアドバンテージがあることを、高校サッカーは教えてくれる。
 
<了>

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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