体罰問題から考える指導者に求められる素養=サッカー界における育成現場の変革
キッカー全員が同じコースを狙った星稜はPK戦で敗退。河崎監督は自身の力のなさを敗因として挙げた 【写真は共同】
今回はあくまで筆者が活動の場としているサッカー界における育成年代のサッカー指導という切り口に偏ってはしまうが、すでに変革や改善の兆しが見える指導現場の実情、トレンドについて見ていきながら、最終的に日本のスポーツ指導における悪しき風習(体罰や非科学的な根性論など)にメスを入れるための解決策について考えてみたい。
全員が左上のコースを狙い続ける
高校サッカーにとっての聖地・国立競技場で2万人近い観客が見つめる中、星稜の選手たちはPK練習で培った正確なキック技術と相手GKにコースを読まれても動じないメンタルを持って左上のコースを狙い続けた。3人目まではそれがうまくいく形で成功したのだが、大会屈指のGKの1人、鵬翔のGK浅田卓人がその狙いに気づき、完全にコースを消すようになると4人目以降、次々と3選手が外し星稜は敗れてしまった。
日本代表のMF本田圭佑(CSKAモスクワ)を筆頭に日本を背負って立つプロ選手を継続的に輩出する高校サッカー界の名将たる河崎監督が口にした「監督の力のなさ」について私自身は、「寸分の狂いもないキック精度を身に付けさせたい」ではなく、「相手に勝つ駆け引きや判断力を身に付けさせたい」という意味だと解釈した。簡潔に言うなら、いくら練習で積み上げたものがあったとしても、相手GKが「左上」と事前予測している状況であれば、その逆を突く右のコースに蹴り込み、勝負に勝つ駆け引き、判断力のことだ。サッカーというスポーツ、競技の本質を知り尽くす河崎監督だからこそ、「力のなさ」は「技術指導不足」ではなく、むしろ「オーバーティーチング(教えすぎ)」のことを指していたのではないか。
主役は選手、指導者はファシリテーター
「主役は選手であることを理解し、選手の持っている能力を最大限生かす“ファシリテーター”であること」
育成大国スペインの中でも屈指の育成機関を持つアスレティック・ビルバオの育成コーチ、ランデル・エルナンデス氏は『優秀なコーチ』をこう定義付ける。
今冬、日本全国でクリニックや講習会を開いた彼が強調していたのは、指導者が発するメッセージの質。中でも選手がミスを犯した時などは、「何でそんなミスをするんだ」と問題を指摘するのではなく、「どうすればそのミスを防げたと思う?」という形で解決策を選手に考えさせる発問型のメッセージの重要性について説いていた。