史上初の夢の舞台に挑む鵬翔の強み=攻守に粘り強さを発揮する“和”の力

大島和人

予期せず現れたダークホース

宮崎県勢として初のベスト4に進み、国立への切符を手にした鵬翔 【写真は共同】

 育成年代ウォッチャーにとって、冬の高校サッカー選手権はサプライズが少ない大会だ。春からのリーグ戦、夏の高校総体があって、その年の勢力図は見えている。もちろんサッカーだから番狂わせはあるし、高校生ゆえにいきなりの成長を見せることもある。加えて皆さんもご存知のとおり、近年の選手権はダークホースの台頭が増えている。ただわたしに言わせればある程度の“予兆”がある。今大会なら「帝京長岡(新潟)が強いぞ」という評判を春から聞いていたし、京都橘(京都)の小屋松知哉は宇治FCのころから際立っていた。昨年の大分(大分)4強入りにはかなり驚いたが、初戦に10−0という派手な試合を見せて「何かありそう」という気配が漂っていた。

 だからこそ、今大会の鵬翔(宮崎)が見せている快進撃には驚いた。1回戦から追っていたにも関わらず、彼らの可能性を感じ取れていなかったからだ。近年の宮崎県は日章学園が5大会連続で代表になっていて、鵬翔は久しぶりの選手権出場だった。鵬翔は5月の県総体も、準々決勝で日章学園に1−4と大敗している。今季のプリンスリーグ九州2部は2位と悪くない成績だが、2部に選手権出場校は参加しておらず、12月22日の1部・2部入替戦も鹿児島実(鹿児島)に敗れた。少なくとも直近の実績は、彼らの台頭を予期させるものでない。 

堅守を支える2つの理由

 連戦による消耗を考えると、選手権は2回戦から登場するチームが有利となる。しかし鵬翔は1回戦からの登場で、東邦(愛知)戦、帝京大可児(岐阜)戦と“耐える”試合展開が続いた。いずれも0−0のスコアレスドローから、PK戦をモノにするというさえない勝ち上がりだった。 

 確かに守備は初戦から良かった。松崎博美監督や、選手に話を聞くと堅守の理由が2つ浮かび上がる。一つは矢野大樹をボランチに配置したことだ。県総体の敗退後に、2年からセンターバック(CB)として固定されていたキャプテン矢野が、最終ラインの一つ前に移った。「落ち着いた選手で、人も動かせる。DFに近いMF」(松崎監督)という彼をフォアリベロ的に起用することで、守備のバランスは改善される。180センチを超す両CBの高い能力も、矢野との組み合わせで生きた。 

 鵬翔の守備はコンバートによってバランスが改善され、さらに実戦を通して成熟も進んだ。夏には2週間に及ぶ関西遠征で関西大、関西学院大といった大学生との対戦も経験した。また地元では同じ学校法人(大淀学園)系列の宮崎産業経営大と練習試合を重ね、「守備意識が芽生えてきた」(松崎監督)のだという。選手も「プリンスでは中盤で拾ってショートカウンターという狙いのはまる試合がいくつかあった。自分たちの守備は全国に通用するんじゃないかと思っていた」(矢野)と、手応えをつかんでいた。 

 しかし、帝京大可児戦は守備こそ素晴らしかったが、前後半を通じて記録したシュートはわずか1本。鵬翔はJクラブが注目するFW中濱健太が、12月初旬に左膝半月板を手術し、今大会はスタメンから外れている。自陣ゴール前の堅さ、GK浅田卓人の瞬発力を生かしたセービングには驚かされたが、エースを欠く攻撃に迫力は感じなかった。分析しきれない不思議さこそ感じたが、選手権を勝ち上がっていく具体的な見通しは立たなかった。 

一晩で鵬翔を目覚めさせた監督の一言

 本当に驚いたのは、3回戦以降の戦いだ。「帝京大可児戦はなかなかシュートを打てなかったので、今日はシュートを打とう」という松崎監督の指示もあり、鵬翔の攻撃が一晩で目を覚ます。3回戦は序盤こそ佐野日大(栃木)に攻勢を許すが、少しずつペースを取り戻し、39分に右サイドバック(SB)柏田崇走のオーバーラップから、矢野大樹がヘッドを決めて先制する。「CBと(矢野)大樹が強いので、安心して上がれる」(柏田)という安心感から、後半も両SBが盛んに攻め上がる。左SBの日高献盛も2アシストと活躍し、佐野日大をカウンター3発で撃沈し、3−0の快勝でベスト8進出を決めた。 

 準々決勝は「宮崎県勢史上初のベスト4」(矢野)を賭けた戦いだった。練習グラウンドに「目指せ国立」という看板が立ち、練習を「目指せ国立」と声をかけて終える彼らにとって、ベスト4はまさに夢の舞台だ。鵬翔は8年前の第83回大会でベスト8入りを果たしたが、準々決勝で市立船橋(千葉)に屈し、国立行きを阻まれた。興梠慎三(浦和レッズ)を筆頭に、後のJリーガー5名を擁する強力な陣容でも越えられなかった高い壁である。

 しかも準々決勝で当たったのは一昨年の大会で国立に進み、今夏の高校総体も全国の4強入りを果たしている強豪・立正大淞南(島根)だ。今大会は初戦で八千代(千葉)を7−1と一蹴するなど、目に見えて好調だった。鵬翔はまず「簡単に飛び込まないで遅らせる。人間を増やしてブロックを作る」(松崎監督)という守備が、2回戦、3回戦に引き続いて機能した。ドリブル、細かいパス交換に振り切られず粘り強く対応し、立正大淞南はゴールに迫るが、最後の一枚を切り崩せない。 

 そうしているうちに鵬翔は30分にDF原田駿哉、36分にDF柏田がセットプレーから立て続けに得点し、前半を2−0で折り返す。後半の開始早々にPKから1点を許したが、53分にはMF小原裕哉のFKからDF芳川隼登が鮮やかなバックヘッドで3点目を挙げる。セットプレーから最終ラインの3名がそれぞれ得点を挙げ、優勝候補を3−1と一蹴した。

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著者プロフィール

1976年生まれ。生まれが横浜で育ちは埼玉。現在は東京都(神奈川県に非ず)町田市に在住している。サッカーは親にやらされたが好きになれず、Jリーグ開幕後に観戦者として魅力へ目覚めた。学生時代は渋谷の某放送局で海外スポーツのリサーチを担当し、留年するほどのめり込む。卒業後は堅気転向を志して某外資系損保などに勤務するも足を洗いきれず、2010年より球技ライターとしてメジャー活動を開始。

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