超高校級DF・植田直通が持つ唯一無二の才能=高校選手権・注目校紹介 大津編

安藤隆人

「とにかく誰にも負けたくない」

恵まれた体格を誇る植田だが、闘争心という唯一無二の才能も兼ね備える 【安藤隆人】

「ドン!」
 ベンチを強烈にたたく音が、記者席まで聞こえてきた。この音の主は植田直通だった。今年11月に行われたAFC U−19選手権。2013年のトルコU−20ワールドカップ(W杯)出場権を懸けたこの大会、U−19日本代表はグループリーグを突破し、準々決勝のイラク戦に臨んだ。勝てば、3大会ぶりのU−20W杯出場だったが、結果は1−2の敗戦。3大会連続でU−20W杯出場を逃した瞬間、この音が鳴り響いた。ベンチの壁をたたき、そのまま頭を抱え、しばらく動けなかった。敗戦の悔しさをピッチにいた誰よりも、強烈に、ありのままに表現をしていた。

 彼はこの大会で1秒も出場していない。ピッチに立てずに終わった選手が、ピッチにいた誰よりも大きなリアクションで悔しがる。それだけこの大会に懸けていたし、勝ちたいという気持ちが強かった。そして、試合に出られなかった自分への怒りもあった。

「悔しかった。おれはこのチームのために何もできなかった。ベンチスタートでも、チームを盛り上げたかったし、いつでも出られるように準備をしていた。でも出場できなかったし、チームの勝利に貢献できなかった。自分の力不足を感じたし、自分にむかついた」

 この闘争心こそ、彼の持つ最大の能力である。186センチ、77キロという恵まれた体躯を生かした、空中戦の強さと対人能力の高さ、キックの精度などに目を奪われるが、それをもたらしているのは、闘争心という彼の唯一無二の才能があるからこそ。

「とにかく誰にも負けたくないんです。負けることは大嫌い。どんな相手でもつぶすつもりでやるし、勝ちに行きたいんです」

テコンドーで世界大会出場

屈辱の1年を過ごした植田は、日本一になることを誰よりも欲している 【安藤隆人】

 植田が持つ闘争心は小学校時代から取り組んでいたテコンドーによるところが大きい。1対1で相手と闘うテコンドーは、「相手に飲まれたらそれで終わり。相手をつぶす、相手を凌駕(りょうが)しないと勝てないんです」(植田)と、闘争本能むき出しのままに相手と対峙(たいじ)することが求められる。その中で、彼は日本一の称号を手にし、さらに日本代表として世界大会に出場するまでの成績を残した。闘争心はとてつもなく大きく磨き上げられたことだろう。そして、その情熱、精神の矛先は徐々にサッカーに向けられていった。

「サッカーの方が楽しかった。みんなで戦えるし、相手を倒す喜びもあって、テコンドーよりもサッカーがしたかった」

 サッカーの世界では無名の存在だったが、「どうせやるなら、全国やプロを目指せる環境で挑戦したかった」と、地元の強豪・大津高校に入学。すぐに平岡和徳監督にその才を見抜かれると、1年生の時からスタメンに抜てき。しかも、そのポジションはそれまでのFWではなく、センターバック(CB)だった。

「最初はいやだったけど、徐々に相手FWからボールを奪ったり、競り勝ったりすることがすごく楽しくなった。特にヘディングはボールを倒すというか、相手を圧倒できるというか、闘いという面ですごく楽しくなった」

 CBの魅力にはまっていった彼は、相手の攻撃を止めるために、その闘争心をむき出しにすることで、さらに闘う本能を磨き上げていった。その中で1年時の選手権、2年時のメキシコU−17W杯などを経験して、CBとして大きくスケールアップしていく。3年になると、CBとしての風格は十分で、空中戦の強さ、対人の強さ、そして正確なフィードはユース年代では群を抜き、すごみを増してきた。

「日本一になることしか考えていない」

 しかし、植田の中におごりは生まれなかった。なぜならば今年1年間、彼は一切の満足を得ることができていないからだ。インターハイでは帝京第三の前に屈辱の初戦敗退。冒頭でも書いたように、AFC U−19選手権は1秒も出場できないまま敗退を迎えた。闘争心むき出しで挑みながらも、不完全燃焼に終わった悔しさが、さらに彼をたき付け、よりスケールアップしようとする強烈な向上心に変わっていた。

 プリンスリーグ九州1部を制し、12月中旬に行われた高円宮杯プレミアリーグ参入戦において、四国代表の香川西を相手に、自らもゴールを決めて、6−1で大勝。来季のプレミアリーグ昇格を決めた後も、彼の表情に笑顔はなく、「今日は楽しめなかった。もっと相手がどんどん攻めてくれたら楽しめたけど、おれは何もしていない。面白くなかった」と口にしたのも、常に激しい闘いに飢えている証拠であり、どん欲に自身のスケールアップを求めるがゆえだった。

「大津はまだ全国制覇を一度もしていない。だからこそ、絶対に日本一になりたい。選手権ですべてを出して、日本一になることしか考えていない」

 今、しびれるような闘いに飢えている男は、同時にタイトルにも飢えている。鹿島アントラーズ入りが決まった逸材は、自らの成長の源となっている闘争心をさらに大きくさせ、闘いの時を待っている。

<了>
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著者プロフィール

1978年2月9日生まれ、岐阜県出身。5年半勤めていた銀行を辞め単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は35を超える。2013年5月から2014年5月まで週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!』を1年連載。2015年12月からNumberWebで『ユース教授のサッカージャーナル』を連載中。他多数媒体に寄稿し、全国の高校、大学で年10回近くの講演活動も行っている。本の著作・共同制作は12作、代表作は『走り続ける才能たち』(実業之日本社)、『15歳』、『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、『ムサシと武蔵』、『ドーハの歓喜』(4作とも徳間書店)。東海学生サッカーリーグ2部の名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター

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