夏のリベンジの機会を得た尽誠学園=札幌山の手は辛勝で課題を残す

青木 崇

挫折から這い上がった渡邊

27点、15リバウンドを記録しチームをけん引した渡邊 【写真は共同】

 渡邊雄太にとっての2011年は、正に飛躍の年であった。史上最年少の16歳で日本代表候補に選ばれ、台湾で開催されるウィリアム・ジョーンズカップに出場。ウインターカップでは、尽誠学園(香川)の準優勝に大きく貢献した。

 ところが、12年は試練が続いている。大きな期待を寄せられたインターハイでは、正智深谷との初戦でまさかの敗戦を喫した。8月中旬に18歳以下の日本代表のキャプテンとして挑んだアジア選手権では、大会中に足首ねんざと指を脱臼する故障に直面。痛みをこらえてプレーしたものの、3位決定戦のイラン戦に負けたことで、世界の強豪国と対戦するチャンスを逃した。厳しい経験を積み重ねたこともあり、渡邊のウインターカップにかける思いは非常に強い。

 インターハイ、国体と初戦敗退だった尽誠学園は、岐阜県代表の美濃加茂戦でこれまでのうっぷんを晴らしていると感じさせる戦いを見せた。試合序盤は渡邊がチームメートの得点機会を作り、東原寛大と山野裕太がレイアップ、岸貴耶も3Pシュートを成功。開始5分で13−2と点差を2けたに広げると、怒とうの猛攻で美濃加茂を一気に引き離す。
 20点リードで迎えた第3ピリオド、渡邊は最初のオフェンスで岸の3Pシュートをアシストすると、その後ティップイン、ドライブ、ジャンプシュートを着実に決めていく。2mの長身ながらも、巧みなボールハンドリング力を駆使したオールラウンドなプレーでチームをリードした結果、尽誠学園は36点差をつけての快勝。色摩拓也コーチは、「自分たちは決して強くないと、練習で繰り返し言ってきました。心の中に挑戦という気持ちを持って、思い切って自分たちがやってきたことを出しなさいと言って送り出しました。失敗もたくさんありましたが、それをすごく表現しようとしてくれたと思います」と、試合内容に合格点を与えた。27点、15リバウンドを記録した渡邊は、勝利以上に正智深谷との再戦が実現したことに喜びを感じている。

「組み合わせが決まったときから、正智にはリベンジしたいと思っていたので、25日がとても楽しみです。夏の借りを絶対に返したい」と渡邊は話す。

 渡邊のワンマンチームと言われてきた尽誠学園だが、美濃加茂戦では岸、東原、楠本龍水らガード陣も活躍。渡邊は徹底マークに直面しても、チームメートを信頼してパスできるようになっており、色摩コーチも「誰が入っても気持ちの入ったプレーをしてくれる」と、ガード陣に対する自信を深めている。リベンジか? それとも返り討ちか? 25日の尽誠学園対正智深谷は2回戦屈指のカードであり、高校バスケットボール好きにとって最高のクリスマスプレゼントになるかもしれない。

辛くも逃げ切るも不満は多い

ファウルトラブルに陥り第3ピリオドにファウルアウトになってしまった、札幌山の手のキャプテン新堀 【写真は共同】

 今年の札幌山の手には、長岡萌映子(現富士通)のような絶対的なスターがいない。昨年も先発していたキャプテンの新堀京花を筆頭に、多くのプレイヤーが貢献することで勝つタイプのチームだ。下馬評ではインターハイで3回戦まで勝ち上がったこともあり、盛岡白百合学園との1回戦を着実にモノにするという予想が大半。第3ピリオド途中までは完全な札幌山の手のペースだった。

 活発なパスワークからノーマークを作り、インサイドでもアウトサイドでも着実に得点を重ねたことで、開始7分強で2けた得点差。第3ピリオド中盤には60−36という大量リードを奪った。ところが、前半でファウルトラブルに陥っていた新堀が、第3ピリオド残り6分でファウルアウトになると、キャプテンを失った札幌山の手はパニックに陥った。

 船引まゆみアシスタントコーチの「あまり試合に出ていない子が出たことで、歯車が狂った」という言葉が象徴するように、盛岡白百合学園のプレスディフェンスに対し、自滅気味のターンオーバーが繰り返される。若松芳の3Pシュート2本をきっかけに始まった怒とうの猛追に歯止めがかけられず、第4ピリオド序盤で1けた差にされると、残り15秒で3点差まで詰め寄られた。

 札幌山の手はその直後、決まれば勝利が決定的となるはずのフリースローを2本とも失敗。盛岡白百合学園が同点に追いつくラストチャンスを与えると、左ウイングで若松をフリーにさせ、試合終了のブザーが鳴る寸前で3Pシュートを打たれた。ボールがリングの手前を弾いたことで、札幌山の手は辛くも逃げ切ったものの、上島正光コーチから「こんなことじゃ試合にならない。ディフェンスとリバウンドがひどい」といった不満が出るのも仕方なかった。

 大量リードを奪われても決してあきらめることなく、大逆転勝利の可能性を感じさせた盛岡白百合学園は称賛に値する。それと同時に、バスケットボールにはセーフティリードがないスポーツであることを、改めて実感させられる試合だった。

<了>
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著者プロフィール

NBA専門誌「HOOP」の編集者からフリーのバスケットボールライターとなる。NBAファイナル、NCAAファイナル4、世界選手権などビッグイベントの取材や執筆活動を行なっている。

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