中島裕之のメジャー成功を左右する3つの関門

中島大輔

“日本人らしい”打撃、土井前ヘッド「中島は大丈夫」

アスレチックスのビーンGMと笑顔で背番号3を披露した中島。入団会見でのユーモアのある受け答えで地元記者から好評を集めた 【写真:ZUMA Press/アフロ】

 第二の関門は、打撃面だ。期待される役割は、“日本人らしさ”。05年にシカゴ・ホワイトソックスの正二塁手としてワールドチャンピオンに輝いた井口資仁が、こんな話をしていたことがある。
「日本人の強みは、つなぎの打撃や右打ちの上手さ。僕はそこにマッチしたと思います。(松井)秀喜クラスの大砲は別にして、つなぐ野球を求められるでしょう。走ったりね」

 自身を「ホームランバッターではない」と評す中島の強みは、アベレージを残せることだ。この点で、メジャーで活躍する可能性が十分にある。本人も自信を持っている様子だ。
「どうこう変えることもないと思うから、自然にやりたい。打順によって、いろんな仕事があると思う。監督、バッティングコーチと話してやりたい」

 12年シーズン、中島が打撃面で重視したのは、ヒット数の増加だった。5月31日時点で打率2割6分9厘と沈んでいたが、この頃、今シーズン限りで退団した土井正博ヘッド兼打撃コーチに「200本打ちます」と宣言したという。「目標を決めて、そこに到着するように考えていくバッター」(土井前ヘッド)の中島はシーズン200安打こそ達成できなかったものの、6月には打率4割5厘で初めての月間MVPを受賞する。7月は打率3割6分3厘、8月は同3割2分1厘と打ちまくった。

 技術的な変化は、バットをやや寝かせながら構えるようにしたことだ。それがヒットの量産につながったと土井前ヘッドが言う。
「バットがスムーズに出るようになり、コンパクトに打つ打撃をつかんできたね。『どの球種と狙わずに、来た球を打つ』ことを実践しているけど、それが一番良いバッティングの仕方。理想的です。疲れがたまるとバットの位置が変わってきてしまうことがあるけど、そこのチェックだけをすれば中島は大丈夫」

入団会見で証明! 異国での適応力の高さ

 そして第三の関門は、生活面の適応だ。異国での生活は言葉、食事、生活サイクル、習慣とすべてが違う。慣れれば解決する問題ばかりだが、一番良くないのは未知なるものに萎縮してしまうことだ。生活の不自由は、確実に野球にも影響する。
 ただ、この点で中島はまったく問題ないだろう。入団会見ではたどたどしい英語ながら、自らの言葉で堂々と話した。ユーモアたっぷりで、地元メディアの心もつかんだ様子だ。所沢に戻ってきての会見では、「メジャー特有の長距離移動への対策」について聞かれると、こう答えている。
「移動に関しては、『チームのチャーター機はメジャーの中でもええ方やから』と言われているので、楽しみにしています。どこでもそれなりに寝られる人間なので、暇を見つけて、寝とこうかなと思います(笑)」

 慣れ親しんだ所沢で、最初から最後まで笑顔で、冗談を交えながら、饒舌にメジャーへの意気込みを語った中島裕之。いつでも、どこでも、「自然体」でプレーできるという最大の持ち味をアメリカでも発揮できれば、自ずと成績はついてくるはずだ。

<了>

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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