鈴木明子、「悔しさ」実感で蘇る4年前の記憶

野口美恵

悔しさが残るFSも「次につながる」演技に

五輪への挑戦について言及を避ける鈴木だが、ソチでのGPファイナルに出て、何かしらのインスピレーションはあった様子 【坂本清】

 SP好調で迎えたフリースケーティング(FS)。冒頭の3連続ジャンプや「ダブルアクセル+3回転」をクリーンに決め、最高の出だしを切った。ところが3回転ルッツが1回転になってしまうと、そこから歯車が狂う。滅多に転ぶことがないフリップ、ループともに転倒し、力を発揮しきれなかった。結果としてはFS3位に踏みとどまり銅メダルを獲得したが、笑顔はなかった。

「悔しい、の一言です。ミスを引きずらない練習をしてきたはずなのですが、ルッツが1回転になってから、気持ちの切り替えができずに焦ってしまい、修正ができませんでした。もう1回滑りたいくらいの内容……。でもこれが次につながるんだと思います」
 と唇をかんだ。

 実はこの時、同じような体験の記憶が、鈴木の脳裏に浮かんでいた。バンクーバー五輪のテスト大会として、五輪会場で行われた2009年の四大陸選手権。やはりどの選手も五輪の準備として臨んだが、鈴木はSP9位、FS8位で総合8位。納得のいかない結果がバンクーバーへの置き土産になり、悔しさをバネにして五輪出場をつかんだのだ。
「なんだか、バンクーバー五輪前の四大陸選手権とかぶってますね。ふふふ。でも多くは言わないでおきます」
 4年前と同じく五輪宣言! とまではいかなかったが、心に何かしらのインスピレーションはあった様子だった。

五輪を目指すかは「内緒です!」

 翌朝、エキシビションの公式練習で再び五輪会場の氷に乗った鈴木。滑る喜びで心がいっぱいになったという。
「やっぱり私はスケートが好き。まだまだ滑りたいって思ったんです。悔しさを感じているから、まだ現役を続けられるんだな。悔しさを感じなくなったときこそ、自分が辞める時なんだな、と。だから自分らしく進んでいくステップの試合になりました」

 そして、五輪への気持ちは変化したか? と聞くと、こう答えた。
「いろいろ感じるものはあります。でも自分の中にしまっておきます。内緒です! 今年は自分のプログラムをすごく好きと言ってくれる人が多くて、それが励みになっています。だからまずは、このプログラムをもっと良いものに育てていきたいんです」

 来季の五輪を目指すかどうかは、今はまだ分からない。ただひとつ言えることは、今季が最後にしろ、五輪が最後にしろ、鈴木が悔しさを感じないくらいに心の底からやりきったと思える、最高のパフォーマンスが現役最後の演技になるということだ。

<了>

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著者プロフィール

元毎日新聞記者、スポーツライター。自らのフィギュアスケート経験と審判資格をもとに、ルールや技術に正確な記事を執筆。日本オリンピック委員会広報部ライターとして、バンクーバー五輪を取材した。「Number」、「AERA」、「World Figure Skating」などに寄稿。最新著書は、“絶対王者”羽生結弦が7年にわたって築き上げてきた究極のメソッドと試行錯誤のプロセスが綴られた『羽生結弦 王者のメソッド』(文藝春秋)。

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