岩倉三恵、失望を経て叶えた海外移籍=スペイン女子サッカー界で活躍する日本人

芳川美里

サッカー以外に持っていた武器

持ち前の人懐っこさを武器にチームメートとの仲を深め、スペインに順応している岩倉 【芳川美里】

 登録の問題で開幕戦から試合に出ることはできなかったが「単純にチャンスをいただいたという気持ちが第一ですね。海外でプレーをしたいと思っても簡単にできるものではないですから、そのあたりはすごく感謝しています」と、岩倉は念願の海外でプレーするチャンスを与えてくれたアトレティコへの感謝の思いを口にする。

 特別大きなコネもなく、岩倉は海外移籍を実現させた。だが、彼女にはサッカー以外にも一つの武器があった。それは“人懐っこさ”だ。たどたどしいスペイン語を駆使してチームメートに積極的に話しかける日本人。「ただ、遊ばれているだけですよ。ロッカールームのおもちゃです。だけど、常に私のことを気にかけてくれて、いつもチームの中に巻き込んでくれるので、感謝の言葉しかないです」と話す。多くの先生に囲まれた生徒は、海外生活で必要な現地の言葉を順調に学んでいる。もちろん、最初に覚える汚い言葉に関しても……。

 そんなチームメートの印象は「よく寝る、遊ぶ、飲む、しゃべる、踊る、です(笑)。とにかく明るい。それに良い意味でも悪い意味でも切り替えが早い。ちょっと落ち込んでいたかと思うとそれを引きずることがない。そういう部分に救われることが多いですね」と本場のラテンの力を日々の生活の中からも感じている。

プロとしてプレーすることに意味がある

 では、大事なサッカー面はどうなのだろう。日本との違いはどこにあるのだろうか。「プレーに関して言えば、攻撃重視のサッカー。細かいパスをつなぐとこや、少ないタッチでボールを動かしていこうとするところは、日本と同じ部分もある。ただ、日本の方がもう少し細かく速い気がします。その代わり、スペインでは細かいパスからダイナミックな展開だったり、一気に仕掛けるカウンターだったり、パワーが日本よりもあると思います」と日本とスペインの違いを分析する。また、「スペインでいいなと思ったのは普段から人と人の距離が近いからか、監督やコーチにも選手はしっかり意見をしている。監督が最終決断をするのは変わらないけど、選手と監督と共にチームを作っていく印象が強い。そういう意味では私もチームの一員として闘っているという意識を持つことができています」と、岩倉は頼る人の少ない海外の環境、外国人という立場の今、“チームはファミリー”というサッカー界の格言の意味を強く感じ取っている。

 16チームで争われるリーグ戦、若いチームは11節終了時点で首位アスレティック・ビルバオと勝ち点差6の4位(バルセロナ、ラージョ・バジェカノと同勝ち点25)と滑り出しは好調だ。「若い選手が多いので好不調の波があるけど、これから強くなっていくと思います」と成長過程のチームのさらなる成長を確信している岩倉は「リーグ、コパの2冠を獲りたいですね。個人としては、そのためにどこまでやれるのか挑戦したい。わたしが活躍することによって、少しでも日本の人がスペインの女子リーグを知ってもらえたらうれしいです。なので、しっかり試合に出場し、チームの勝利のために結果を残すことが大事だと思っています」とタイトル獲得を目標と掲げた。

 JFAの強化指定制度選手国から外れているスペインでは、経済的にはプレーすることだけでなく、生活することも容易ではない。だが、スペインには岩倉にとって経済的な充実以上のものがあった。

「経済的なものはあまり気にならない。多少なりともお金をいただいてプロとしてプレーすることに意味があると考えています。海外の経験で何を得るのかは終わってみないと分かりません(笑)。ただ、確実にスペインでの経験が無駄になるとは思っていません」と念願だった海外でのプレー、新しい挑戦に身を置けることの幸せを誰よりも岩倉は感じている。

<了>

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