日本人が最も愛したフェラーリF1マシン=プロストが駆った美しき駿馬

GP Car Story編集部

敗北、されど強い存在感を示した駿馬

年間チャンピオン獲得を目前で逃したプロスト(右)は、マンセル(左)との接触が要因と語る 【i-dea】

 プロストは決してスタートがうまいドライバーではない。そんな彼が一世一代のベストスタートを決めたのが、90年の日本GPだったと言えるだろう。彼は愛機フェラーリ641/2を誰もいない1コーナーへと誘う。しかし、次の瞬間にプロストのマシンに衝撃が走り、気付いた時に彼はサンドトラップの中にいた。プロストがリタイアとなった時点でセナのタイトルが決定という条件のもと、好スタートを切ったプロストの641/2に対してセナは、“カミカゼ”特攻のごとく、自ら操るマシンで体当たりを食らわせたのだ。

 当時をリアルタイムで見ていたプロストファンは、鈴鹿の接触劇がなければプロストが逆転タイトルを手にできたかもしれないと思ったはずだし、セナへの敵意をさらに増長させたことだろう。しかし、20年以上の年月がたった今、プロストはあの日の出来事を振り返り「避けることのできない事故だった」と語る。当時はセナの振舞いに嫌悪感を示していた彼が「今ならセナの気持ちが分かる」と言うのだ。もちろん、セナが存命ではない事実が、プロストの考え方を和らげたとも言える。

 さらにプロストは、タイトルは鈴鹿で決まったが、その前にすでに決着はついていたとも言う。セナの激突によりタイトルを奪われたのではなく、身内に戴冠を“妨害”する存在がいたと語る。それを象徴するシーンが、僚友ナイジェル・マンセルに妨害されたためにマクラーレン・ホンダの2台に先行を許してしまった、ポルトガルGPのスタートだったというのだ。

 プロストもフェラーリ641/2も、90年シーズンの敗者である。しかし、この組み合わせがもたらす衝撃はけた外れだった。純粋な彼のファンは疾走する紅い駿馬に心酔し、アンチには脅威的な存在としてのイメージを植え付けさせた。F1グランプリ60年以上の歴史の中で誕生した多くのチャンピオンマシンにも引けを取らない魅力が、あのマシンにはあった。おそらく641/2は、日本人が最も愛したフェラーリF1マシンと言えるはずだ。

 プロストは言う、「641/2を駆ったあのシーズンが、自分のキャリアの中で最も完成されたドライビングができた」と。

<了>

『GP Car Story Vol.2 Ferrari 641/2』

『GP Car Story Vol.2 Ferrari 641/2』 【i-dea】

Flash Back 「美しき駿馬の嘆き」
・アラン・プロスト インタビュー「鈴鹿でタイトルを失ったんじゃない。戦犯はマンセルさ!」
・641/2フォトギャラリー

大解剖641/2
・開発者が語る641/2誕生の真実
・全16戦の仕様とモディファイ
・スケドーニと跳ね馬
・デザイナー奥明栄が641/2の開発意図を読み解く
・セミオートマ開発
・V12エンジンのこだわりと苦悩

PROST×MANSELL
・プロストvsマンセルのサイド・バイ・サイド
・マンセルの1990年シーズン
・笑うマンセル、怒るプロスト―第13戦ポルトガルGP

チェザーレ・フィオリオの回想

641/2とジャン・アレジの数奇な運命

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