荒木絵里香「沙織が抜けたからこそ勝ちたい」=バレー女子東レと全日本の主将が語るVリーグ、ロンドン五輪

田中夕子

ロンドン五輪3位はラッキーだった

ロンドン五輪での3位はラッキーな面もあると語った荒木(前列左から3番目)。しかし、チーム力ではどのチームよりも勝っていたと語る 【スポーツナビ】

――あらためてロンドン五輪を振り返って、3位という結果はどう受け止めていますか?

 ラッキーだったと思います。実際、予選ではイタリアやロシアに負けているわけですし、予選グループがA組だったことも、3位決定戦の相手が韓国だったこともラッキーだった。でも、それを作り出すための地道な努力や計画を立ててきた(代表監督の)真鍋(政義)さんはすごいと思うし、目標に向けて自分ができることをしよう、と常にチームがまとまっていました。

 実力は米国、ブラジルには及ばなかったし、もしかしたらロシアやイタリアにも勝てなかったかもしれないけれど、それを埋め、上回るぐらい、チームへの思い、チーム力という点では、ほかのチームよりも勝っていたと思います。真鍋さんだけではなく、コーチ陣もスタッフもみんなチームに対して献身的で、選手も全員がそうだった。

「(外れた選手も含めた)17人の選手で戦っている」と本気で思っていたから、最後の最後にミズホ(石田瑞穂)が抜けたことも、ワールドカップで活躍したナナ(岩坂名奈)や、OQT(世界最終予選)に呼ばれてそこで結果を残したアン(平井香菜子)の分、チームのためにいつも一生懸命動いてくれたコトキ(座安琴希/いずれも久光製薬)の分、苦しい思いをたくさんしてきたメグ(栗原恵/岡山)の分、そういう思いを全部背負って戦おうと思っていました。

――ポイントは8月7日の準々決勝の中国戦でしょうか?
 
 間違いないですね。ホント、あそこがすべてだと思ってチームが進んでいましたし、実際に真鍋さんからも、ずっと前から「8月7日がすべてだぞ、これが今までやってきたチームのすべてが出る日だ」と言われ続けてきました。組み合わせが出る前から「中国と当たる」と言われていたし、本当にその通りになって、この結果ですから。

 個人的に振り返ると、あの時の戦術がどうだったとか、細かいポイントとか、そういうことがいろいろあったはずなのに思い出せないんです。それ以前にあの状況、大事な一戦に向かっていく極限の状態を思い出すだけで苦しくなります(笑)。でも、OQTよりは良かったかな……。OQTの最終戦、セルビアとの試合前は本当に苦しかった。私自身は、「もしも出られなかったら、日本のバレーだけではなく、自分も終わりだ」と腹をくくっていました。

長いリーグを戦いながらチームで成長できるように

相当なプレッシャーがかかっていたOQTのセルビア戦。本調子ではないものの、チームを引っ張り、五輪の切符をつかんだ 【坂本清】

――五輪最終予選は最終日のセルビア戦で五輪出場が決まる状況でした。「大一番」という意味では五輪の中国戦と同様に感じられますが、どんな違いがありましたか?

 中国戦の時は集中力も高まっていたし、ずっと準備してきた試合なので、同じギリギリとはいえ精神的にはまだ落ち着いていられました。OQTの最終戦はもっと追い込まれていて、試合のルーティーンをこなすのに必死でした。いつものように起きる、食べる、練習する。1個1個をちゃんとやるしかないと思っていながらも、完全に情緒不安定で気づけば泣いていることもありました。

 個人的にもOQTの期間中はずっと調子が悪くて、試合に出してもらえるような状態じゃないぐらい、チームに迷惑をかけていました。それでも最終戦に出してもらえることになったので、とにかく必死でやるだけだと。テンさん(竹下佳江)から試合前に「今日は多く使うよ」と言われたので、ファーストポイントが私のすべてだと思って、まず1点を取ること。1点を取れば自分も乗れるし、テンさんも上げやすくなるはずだから、「ファーストポイントだ、ファーストポイントだ」と最初の1ポイント目だけを考えて試合に臨みました。

 結果として最初の1点を取れて、試合には勝てなかったけれど五輪が決まった。もしダメだったら代表も、リーグもすべて終わり。日本を出て行く覚悟でしたから、五輪が決まってホッとしました。今こうして振り返るのも苦しいぐらい、追い詰められていましたよ、ホントに(笑)。そこまで苦しめられることはそれ以降なかったので、五輪に向けてはブレずに進んでいくことができました。

――あらためて、今シーズンの抱負を聞かせて下さい

 見てもらう人にこんなバレーを見せたいとか、いろいろな気持ちもありますが、やはり最大の目標は優勝です。チームみんなで、今までの東レが築いてきた強さはもちろん自信として、でも今年はそうじゃない厳しさも受け止めて、長いリーグを戦いながらチームで成長できるように頑張ります。

<了>

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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