コンディショニングが高めるサッカーの質=日本人フィジオセラピストが学ぶ本場の理論

中田徹

ピリオダイゼーションのメリットとは 

フィジオアセラピストの立場からサッカーの質を上げたいと考える相良。そんな彼にとってオランダは最適な環境だった 【中田徹】

 オランダはサッカーの要素を切り離さないでトレーニングする国。レイモンドに言わせると、サッカーをすることでコンディションを高めないといけない。コンディショニングトレーニングは週に1回。その例を挙げていくと

1)1、2週間目 アクション頻度の維持 大きなピッチで負荷を軽くし、11対11をやる 
2)3、4週間目 アクション頻度を維持させながら少し強度を上げる ピッチを狭くし7対7
3)5、6週間目 頻度と回復スピードの向上 休憩を短めに狭いピッチで強度の高い4対4
 
 この1サイクルが6週間。11対11なら6週間ごとに時間を延ばしていく。4対4なら休憩時間を短くしていく。そのほかスプリントを鍛えるトレーニングもボールを使いながら、やはり6週間で回していく。

「NACやNECは1週間のニュートラルウィーク(ピリオダイゼーションをしない週)を作って4週間で回しているそうです。そこはクラブによって調整していますが、大枠は同じです」

 オランダの多くのクラブには、ピリオダイゼーションの分厚い練習メニュー本が置いてある。この本は“プロ用”と“アマ用”で少し内容が違う。
「根本的なところは違いませんが、プロが週5日間練習するのに対し、オランダのマチュアは週に3日しか練習しません。プロだと試合の翌日にリカバリーし、それからオフ、戦術、フィジカルトレーニング……とメニューを立てることができる。しかしアマチュアの場合、プロのような理想的な形に持っていけない。そこで少しメニューが変わってくる。それでも週3回しか練習ができないなか、走るだけのトレーニングをするのか、それでもサッカーをしながら走るトレーニングをするのか、その差を考えた場合、ピリオダイゼーションはメリットがある。例えば『今日の11対11は前線からのプレスを意識しよう』とか指示を出すと、戦術のことを確認しながらコンディショニングもできます」

選手によって変更する頻度や強度

 相良は現在、アイセルメール・フォーヘルスというアマチュア名門クラブでコンディショニングを担当している。

「監督はヤン・ザウトマン(編注:巻末リンク『強国オランダを支える育成ピラミッド』参照)。彼はファン・ハール監督のAZ時代に指導者研修を受けており、ピリオダイゼーションをマスターしている。僕はフィジオセラピストというより、ピリオダイゼーション・スペシャリストという肩書きで活動しています」

 チームのなかには若い選手もいれば、30歳を過ぎた選手もいる。ポジションによってプレーの強度も違えば、けがが多い選手、少ない選手もいる。だからピリオダイゼーションの頻度や強度を選手によって変えていく。それが相良の仕事でもある。

「15メートルのスプリントを10本2セット、6対6を6分4本やるとする。そこで30歳を超えてる選手はスプリントと6対6をそれぞれ1本ずつ少なくする。毎週火曜日は選手もコンディショニングだと分かっています。シーズン前にも『選手によって負荷と本数を変える』と言いましたし、個人との面接でも『君はけががあるから、みんなよりスプリントを減らすよ』と説明したりしました」

 それを言っておかないと、「なんでおれを外すんだ」と面倒くさいことになる。
「昨季、面倒くさいことになりました(笑)。 彼はひざの軟骨がすり切れるようなけがをしていたから、練習を減らすと説明したのに『自分はみんなと同じだけ練習できないんだ』と。でも最終的には昨シーズン、彼は1回もけがで練習も試合も休まなかったので、最後はスゴく納得していた。練習の負荷を落としたからと言ってほかの選手よりも低い評価をしているわけではない。それを、身をもって経験してもらえれば納得してもらえる」

勝利という結果に直結させることが重要

 選手によって練習の頻度や負荷を変えるのはレイモンドの理論でもある。マンチェスター・シティとウェールズ代表で、レイモンドはクレイグ・ベラミーと一緒に仕事をした。かつてベラミーはけがが多いことに悩まされていた。

「君はフィジカルトレーニングが多すぎるんだ」とレイモンドは言った。「君はスゴく爆発的なプレーをする選手だから、回復時間が遅い。ほかの選手と同じトレーニングをしたら疲労がたまりやすくなり、それでけがをするんだ」

 レイモンドのアドバイスを受けてからベラミーのけがが劇的に減った。ベラミーは今、カーディフでプレーし、レイモンドはアルメニアにいるが、それでもベラミーはアドバイスを求めて連絡をし続けているという。

「サッカーの現場でメディカルスタッフとして働いていると、監督が期待するのはけがした選手をいち早く復帰させることです。しかし、レイモンドは『メディカルスタッフの仕事は選手をいち早く復帰させることではなく、その選手が1シーズン、どれだけの多くの試合でフィットした状態でプレーできるかだ』と言うんです。今、僕が働いているアイセルメール・フォーヘルスはピリオダイゼーションを取り入れてるからやりやすい。けがを予防すること、フィットした状態に選手を持っていくこと、これを達成するには指導者も同じ考えを持たないといけない。しかし、オランダはサッカー協会の指導者講習の授業でこの理論を取り入れている。指導者とメディカルスタッフが相反することはない」

 ピリオダイゼーションの行き着く先は、サッカーの質の向上である。フィットした選手が増えれば練習の質が上がり、試合のパフォーマンスも上がっていく。
「レイモンドいわく、サッカーチームが勝つにはまずけが人がいないこと。そしてベストメンバーで練習を常に100パーセントでできること。そして試合にもフィットした状態で臨めること。これをシーズン通して続けることができるということが、サッカーチームの勝つ条件だと定義付けていた。サッカーに特化したピリオダイゼーションだと、サッカーの練習をしながらコンディションを挙げ、けが人を減らして練習の質を上げることができる。つまりフィジオセラピストもサッカーの勝利・優勝に直接貢献できる。そこが明確に描けるようになった。一流のフィジオセラピストはそういうところで結果を出せるんだなと。けがを予防して100パーセントの練習ができる、試合に臨める状態を作って、最終的にはチームが勝つという結果に結びつけられる。これがサッカー界の中で求められているフィジオセラピスト。そういう人になりたいと思った」

 コンディショニングがサッカーに特化していくことによって、けがの予防ができ、それによって練習の質が高まり、試合の質も高まっていく。そんなチームが増えたら、サッカーというスポーツの質がもっと上がる。これを突き詰めていけば、良いサッカーが増え、それを子どもが見ることで夢を与えることができる――相良の目標の実現が現実味を帯びてくる。

<了>

オランダでフィジオセラピストとして活躍する相良浩平 【中田徹】

相良浩平
筑波大学卒業後2003年に渡蘭。04年からプロクラブFCユトレヒトの育成で5年間トレーナーとして活動。08年にフィジオセラピスト、12年にマニュアルセラピストの国家資格を取得。現在はSport Medisch Centrum Amsterdamでフィジオセラピスト/マニュアルセラピストとしてアスリートをサポートする傍ら、ピリオダイゼーションスペシャリストとしてチームのサポート、講習会講師などを努める。今年6月に開催された第1回Word Football Academy Expert Meetingに日本人代表として出席。

サッカーのピリオダイゼーションセミナー開催のご案内
昨年に引き続きサッカーに特化したピリオダイゼーション ベーシック&マスターセミナーが12月、日本で開催されます。講師はオランダ代表、ロシア代表、韓国代表などの指導歴を持つレイモンド・フェルハイエン氏。相良浩平氏も通訳として帯同します。詳細は下記URLにて。
http://www.worldfootballacademy.jp

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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