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始めなければ始まらない=シリーズ東京ヴェルディ(7)
シーズン佳境、東京クラシックがやってくる

終了間際、劇的な同点弾

長きに渡り、現場を統括してきた川勝氏。存在そのものがクラブの指針だった
長きに渡り、現場を統括してきた川勝氏。存在そのものがクラブの指針だった【Getty Images】

 緩やかな放物線を描くボールを目で追いながら、わたしは何かが起こることを予感していたか。数秒後、ゴールネットが揺れることをイメージしていたか。ほんの欠片くらいは希望を持っていたけれど、信じていたとは到底言えない。それには理由があり、ここ何年もロスタイムの劇的なゴールシーンとはごぶさたなのだ。終了間際の手痛い失点なら楽に思い出せる。例えば2010年シーズンの終盤、東京ヴェルディ(東京V)のJ1昇格の望みが断たれたアビスパ福岡戦(※第35節、2−3で敗戦)がそうだった。高橋泰の直接FKの弾道は忘れようとしても忘れられない。だが、奮闘が報われる側になった記憶はずいぶん昔までさかのぼらなければ思い出せない。すると、まことにつまらないことではあるが、心の準備みたいなものが勝手にできてくる。


 ロングパスの落下点にいた阿部拓馬が坂本將貴との空中戦を制し、中央に折り返す。刀根亮輔がダイレクトで浮き球のパスを入れ、これに阿部が素早く反応。胸トラップでボールをコントロールすると、左足でゴールに突き刺した。今季17点目。さすがエースだと取って付けたような言葉が浮かんだが、こんなわたしには言われたくないだろうと思う。

 第35節、東京Vとジェフユナイテッド千葉の昇格争い直接対決は、2‐2の引き分けに終わった。降りしきる雨の中、千葉が二度のリードを奪ったが、そのたびに東京Vが追いつき、勝ち点1を分け合うことになった。結果、千葉は4位、東京Vは5位にそれぞれ順位を上げている。


 終盤、指揮官のさい配もひりひりした緊迫感を感じさせた。1‐1の状況で残り10分を切り、東京Vの高橋真一郎監督、千葉の木山隆之監督、ともにすでに2枚ずつ交代のカードを切っていた。


「アウエーだからといって、同点のまま終わらそうという考えはなかったね。もう1点取るために、3人目を投入するタイミングをうかがっていた。気になっていたのはオーロイの存在。もし彼を入れてきたら、深津(康太)を付けて相手の高さを消すしかないだろうと思ったが」(高橋監督)


 86分、千葉は谷澤達也のゴールで勝ち越し、88分に米倉恒貴を投入。直後の89分、高橋監督は刀根を前線に送り込んでいる。ロスタイムの同点ゴールを生んだ、勝負のあやだ。


 前半、曲げて落とすミドルシュートをたたき込んだ中後雅喜は言う。

「互いに勝ちたい気持ちがよく出ていた試合だと思います。僕らは勝ち点3だけを考え、それは相手も同じだったでしょう。2点目を失っても、まだまだいけると思ってましたよ。そうして最後に追いつくことができた。全体的には、開始10分くらい相手のプレッシャーを受けましたが、しっかりパスをつなぎ、ポゼッションしながらゴール前にボールを運べました。ここ数試合の結果が自信になっていると感じます」

再浮上のきっかけとなった監督交代劇

 今季、東京Vは8月に入ってから急激に失速。深刻な不振に陥り、一時はプレーオフ圏外の7位まで順位を下げた。浮上のきっかけとなったのは、第32節のFC岐阜戦で敗れ、3連敗となった直後の監督交代だ。9月6日、東京Vは川勝良一監督の辞任を発表。事実上の解任であり、高橋コーチが指揮を執ることになった。高橋監督はパスワークを主体とするチームのベースを継承しつつ、ボールに対する反応の速さや攻守の切り替えを強化。また、東京Vユースの中島翔哉をメンバーに抜擢(ばってき)し、第33節の福岡戦ではデビュー戦でプロ初ゴールを記録している。


「この時期に翔哉を使ったのは予定通り。ケツさん(川勝氏)と『だいぶ良くなってきた。そろそろ使いごろだね』と話していたところだったから。これから先は一戦一戦の勝負。各々の仕事を整理してあげれば、こちらの要求に応えてくれる選手がそろっている。粘り強く戦っていきたい」


 と語る高橋監督。就任以降、2勝2分け(天皇杯含む)で、敗戦はまだない。胸に抱く教訓は、2009年、初めてトップチームを率いることになった柏レイソルでの失敗だ。


「選手の能力を分析し、どのような戦術が適しているかを見極める前に、自分の考える枠組みに当てはめようとしてしまった。それが最初のつまずきでしたね。新聞に言ってないことまで書かれたりして、あちこちうまくいかなかったな」との悔恨は、指導者として貴重な財産に違いない。


 さておき、川勝氏は強化本部長からも退くことになり、これは長期的に見て東京Vに新たな問題を投げかける。現場を統括してきた川勝氏はサッカーの基準を示し、存在そのものがクラブの指針だった。それは育成組織まで影響し、東京Vユースの冨樫剛一監督は「どういった選手をトップに上げ、どの部分を強化していくか。ケツさんの基準がユースの選手たちにも浸透している」と語る。


 東京Vの場合、現場の責任を持ち、かつクラブの経営面にも携わるゼネラルマネージャーにあたる人物がいない。現在、強化のトップは自動的に繰り上がった昼田宗昭強化部長ということになる。今季の終了後、監督の選定やチームづくりの方針を立てるにあたり、どのような体制を組むのか注目される。


 東京Vの対戦スケジュールは次節もアウエーで、相手は6位のモンテディオ山形。そして、10月7日には味の素スタジアムでFC町田ゼルビアとの東京クラシックを控えている。第1回は4月1日、町田のホームで行われ、2−1で東京Vが勝利を収めた。

海江田哲朗

1972年、福岡県生まれ。獨協大学卒業後、フリーライターとして活動。東京ヴェルディを中心に、日本サッカーの現在を追う。主な寄稿先に『週刊サッカーダイジェスト』『サッカー批評』『Soccer KOZO』のほか、東京ローカルのサッカー情報を伝える『東京偉蹴』など。著書に、東京ヴェルディの育成組織にフォーカスしたノンフィクション『異端者たちのセンターサークル』(白夜書房)がある。

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