始めなければ始まらない=シリーズ東京ヴェルディ(7)

海江田哲朗

東京Vが最も力を入れる東京クラシック

ボールを奪い合う町田の勝又(青)と東京Vの深津(黄)。熱戦が期待される東京クラシック 【Getty Images】

 東京クラシックは、今年東京Vが最も集客に力を入れているゲームだ。10万枚のチラシを製作し、ホームタウンの小学校に配布するほか、東京都サッカー協会に加盟する700チームの小学生を無料招待。試合前にはエキシビジョンマッチとして、都並敏史(東京Vアドバイザー)、北澤豪(解説者)ら歴代のスターを集めたOB戦を開催する。

 仕掛け人である東京Vクラブプロデュース部の佐々木達也部長に話を聞いた。

「開幕前、こちらから町田さんにアプローチして、ぜひやりましょうと話がまとまりました。着眼点は、町田市はサッカーが盛んな土地柄で、ともに古くから育成年代のサッカーに実績があること。タイトル案はいくつかありましたね。新東京ダービー、東京クラシコ、そういえば(調布市と町田市を結ぶ)鶴川街道ダービーなんてのもありました。ダービーやクラシコは使い古された感があり、鶴川街道はローカルすぎて論外(笑)。やはり東京の二文字は使いたかった。それで結局、スペイン語のクラシコを英語にしてクラシック。東京クラシックに落ち着きました」

 佐々木は広告代理店などを経て、2011年から現職に就いている。なお、中村憲剛(川崎フロンターレ)や澤穂希(INAC神戸レオネッサ)を輩出したことで知られる府ロクSCの出身で、ポジションはGKだった。全日本少年サッカー大会の東京都予選で、FC町田の北澤にゴールを決められ、涙をのんだ経験を持つ。

「歴史の必然性から生まれたものではなく、プロモーション主導で意図的に特別感を加えたゲームに違いないですけど、こういうのは始めなければ始まらないんです。Jリーグが行ったアンケートで、スタジアムに来ない理由のひとつが『いつどこで試合をしているのかわからない』というもの。案外、この意見が多い。また、ヴェルディがいまだに川崎のクラブだと思っている人、読売グループの傘下にあると認識している人は少なくありません。それが世間一般の理解度ですよ。多くの人々のフックとなるプロモーションを仕掛ければ、周知することができ、来場していただけるかもしれない。その可能性をみすみす逃すことはないでしょう」

協力を惜しまないサポーター、新たな歴史となれるのか

 今季の目標に掲げる3本柱は、新規ファンの獲得、オールドファンの掘り起こし、近隣のクラブからの乗り換えだ。

「あまり大きな声では言えませんが、今こそチャンスだと思っているんです。近くのFC東京と川崎フロンターレが両方とも中位にいて、目立った勢いがない。J1とJ2では日程がズレているので、気分転換にちょっとのぞいてみようかという方は必ずいるはずです。東京クラシックの目標は1万5000人。現在の見込みは9000人くらい。最低でも1万人の大台はクリアしたい」

 これにサポーターも協力を惜しまない。9月22日、東京Vサポーターと町田サポーターは、多摩地域で合同告知活動のチラシ配りを実施。29日には町田駅前で同様の活動を行うことになっている。なお、この件についてクラブ側は実施が決まったという事後報告を受けただけで、発案や根回しに一切関与していないという。

「ああいった人たちがいてくれるおかげでクラブが成り立っているんだな、と実感します。それぞれ生活を懸けてるもんね。変な言い方ですけど、純粋で下心がない。クラブが発展していくために、ひたすら役立ちたいと行動してくれている。こっちもちゃんと仕事をしなくてはと思いますよ」(佐々木)

 サポーターによる地道な活動は以前からあったが、その輪を広げたのは2010年にあった東京Vの経営危機に端を発している。彼らは失うことの大きさを知る人たちだ。今さら引っ込みがつかない人たちでもある。クラブの個人スポンサーになったり、そこまでお金を使えなくてもスタジアムアテンダントやポスター張りのボランティアなど、できる範囲で協力している知り合いがわたしの周りには何人もいる。誰から頼まれたわけでもないのに、勝手に引き受けると心に決めた人がほとんどだ。サッカーファンは数多かれど、未来がだんだん閉ざされていく感覚を知っているのはほんの一握りしかいない。それがクラブの背骨を支える強みになる。

 東京クラシックは出来合いの産物だが、こういった仕掛けから意図しないところまで発展していくのが面白いところである。やがて、それらが連なり、歴史を紡いでいくのだろう。

 ひと皮剥けば、単なる近場の上位対下位の対戦ではないか。そう見る向きもあろうが、最下位の町田はJ2残留が懸かった勝負の真っただ中にある。東京Vとしても、ラストスパートの段階でぽっと出の新興チームに勝ち点をくれてやるようでは、昇格うんぬんを語る資格を失う。気の抜けたソーダみたいな試合にはなりようがない。

<了>

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著者プロフィール

1972年、福岡県生まれ。獨協大学卒業後、フリーライターとして活動。東京ヴェルディを中心に、日本サッカーの現在を追う。主な寄稿先に『週刊サッカーダイジェスト』『サッカー批評』『Soccer KOZO』のほか、東京ローカルのサッカー情報を伝える『東京偉蹴』など。著書に、東京ヴェルディの育成組織にフォーカスしたノンフィクション『異端者たちのセンターサークル』(白夜書房)がある。

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