まさに痛み分け=犬の生活2012 VOL.13 J2第35節 千葉 2−2 東京V

西部謙司
 先制して追いつかれ、突き放したと思ったらロスタイムに同点弾を食らいました。試合後の両チーム選手たちの表情を双眼鏡でのぞいてみると、これぞまさに痛み分けという感じでしたね。

 千葉は前節のギラヴァンツ北九州戦の後、サポーターたちが社長、TD(テクニカルダイレクター)、監督を呼び出して説明を求める事態でした。東京ヴェルディのほうも川勝良一監督が辞任という、こちらも緊急事態。どちらも勝ち点3を目指して戦い、どちらも勝ち点2を取り損ねた試合となったわけです。

谷澤の個性

 谷澤達也は評価の難しい選手だ。良い選手なのは間違いない。だから評価が難しいというより、どういう選手なのかよくわからない、あるいは何をするのかわからない選手といえばいいだろうか。そして、それが彼の長所であり短所でもある。

 スリッピーなピッチコンディションに、立ち上がりは両チームともミスが出た。千葉が先に恩恵を得る。坂本將貴の縦パスがディフェンスラインの裏へ抜け、谷澤がペナルティーエリア左の角度のないところで拾う。谷澤はGK土肥洋一と1対1の関係だったが、シュートを狙うには角度が小さすぎた。中央には千葉の選手が2人詰めている。セオリーなら、ここは中央へのラストパスである。ところが、谷澤はあえてシュートを狙ってGKにセーブされた。

 16分、後方で丁寧にパスを回した後、深井正樹が中盤をドリブルですり抜けながらスルーパス。逆サイドから斜めに裏へ抜けた谷澤はたぶんオンサイドだったと思うが、近くにいた荒田智之がオフサイドだった。22分にも谷澤がらみの攻撃、深井へチップパスを送り、深井がシュートするがDFにブロックされた。こぼれ球を拾った谷澤がキープしながら様子をうかがう。が、自信満々のドリブルは奪われてしまう。

 そして、26分に谷澤のクロスから先制点が生まれた。坂本との数度のパス交換の後、するりと縦に抜けてゴールライン付近まで侵入、どんぴしゃのクロスで荒田のヘディングシュートをお膳立てしてみせた。

 谷澤は人とは違うプレーをする。パスがセオリーな場面なら、あえてシュートを試みる。味方も予想しないタイミング、コースでパスを出し、持ちすぎに思えるぐらいボールをこね回すこともある。それが良い結果につながることも、悪い結果に終わることもある。そういう個性なのだ。ある意味、失敗を許されている選手だと思う。

 以前より、ずっと才能をコントロールするようになった。それでも谷澤は依然として人とは違う、少々あまのじゃくなアタッカーで、それが魅力だ。サッカーの神様は公平ではない。ときどき味方の士気を下げるミスをしても、チームを救う大きな仕事をやってくれるのは、谷澤のような“選ばれた”プレーヤーであることが多い。好き勝手にやって、おいしいところを持っていく。でも、サッカーはそういうものなのだ。

コンパクトから打ち合いへ

 山口智が戦列に戻った千葉は、コンパクトな守備陣形ができていた。攻めては坂本、谷澤の左サイドからの崩しがさえる。東京Vの対面、西紀寛と森勇介の右サイドは攻撃のエンジンルームだが、逆に守備では弱点といっていい。ここをうまくついていた。

 ただし、展開はほぼ互角。東京Vもミドルシュートで応戦し、41分にはアレックスのグンと曲がるミドルシュートがゴールを襲う。43分のCKはいったん千葉がクリアしたが、左のタッチライン付近で拾った中後雅喜が意表をつくロングシュートで同点に追いついた。中後の右足キックには定評があるものの、角度も距離もまさか狙ってくるとは予想しにくい位置からのゴラッソだった。

 後半、千葉は山口を大岩一貴に交代、まだコンディションは万全でなかったようだ。大岩がセンターバックに入って、千葉の守備組織にほころびが目立ち始める。コンパクトにしようとしてうまくいかず、東京Vに攻め込まれる。しかし、田中佑昌のボール奪取から中央の兵働昭弘を経由して坂本へ、最後は荒田がライン裏へ抜け出したが、シュートを右へ外す惜しいチャンスがあった。さらに怒とうの波状攻撃もあり、やはり試合は一進一退。次第にカウンターの応酬になっていった。

 リカルド・ロボのヘディングがポストをたたき、深井のループがわずかに外れた後、千葉に待望の勝ち越し点が入る。深井のパスをペナルティーエリア内で受けた荒田が、右へ流れながら低いクロスを折り返し、ファーサイドから詰めた谷澤が至近距離から押し込んだ。

 しかし、これで試合は終わらなかった。バイタルエリアに再三侵入されていたので危ないとは思っていたが、
ロスタイムの93分に阿部拓馬に決められた。ペナルティーエリア付近で浮き球に競り勝った阿部がヘディングで中央へ、中後がそれを頭でリターン、いち早く体勢を立て直して走り込んでいた阿部が蹴りこんだ。阿部のコンタクトの強さ、ゴールへの執念が2−2の同点ゴールに結びついた。

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著者プロフィール

1962年9月27日、東京都出身。サッカー専門誌記者を経て2002年よりフリーランス。近著は『フットボール代表 プレースタイル図鑑』(カンゼン) 『Jリーグ新戦術レポート2022』(ELGOLAZO BOOKS)。タグマにてWEBマガジン『犬の生活SUPER』を展開中

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