「負けるつもりはない」切磋琢磨するソフトBの2本柱=鷹詞〜たかことば〜

田尻耕太郎

「一生のお願いやから」大隣を変えた新妻のひと言

攝津とともに防御率1点台でタイトルを争う大隣 【写真は共同】

 そして、チームとしては大隣の成長が大きいのだ。シーズン前から球団内外でささやかれていた、今季の鍵を握る投手こそ彼だった。
「攝津がエース格になるだろうが、彼は去年も14勝している。大きな上積みは無理だ。7勝だった山田(大樹)や6勝の岩嵜(翔)が2桁勝てる保証もない。そこで大隣だ。去年の3勝は9月だけで挙げたもの。08年には11勝しているし、力は持ってるんだ。和田や杉内の穴を数字で埋めるなら、大隣に頑張ってもらうしかない」(開幕前の球団スタッフ)

 今季がプロ6年目。06年ドラフト希望枠で入団した際には「近大の江夏」の異名をとり、近い将来どころか1年目からバリバリ活躍することを期待されていた。2年目に11勝を挙げたものの、昨季までの5年間で通算28勝。負け数はそれを上回る31。ふがいないのは、誰よりも大隣自身だった。
「ずっと『良いものは持っているのに』と言われることが多く、求めたらアカンのでしょうけど『なんで大学時代のようなボールが投げれんのや』って悩んだ時期もありました」

 転機は昨オフの結婚。全ては新妻のひと言から始まった。
「僕は基本的には『どうにかなるやろ』って性格。それが去年の秋でしたかね、奥さんがたまたまメンタルの本を読んでいた時、『お願いやから、メンタルのトレ―ニング受けて。ケンに足りんのはメンタルだけだと思うの。一生のお願いだから』って」

 その迫力に圧倒されたのか、大隣は素直にその本の著者を調べて連絡を入れた。
「僕がやっているのはまだ初期の初期。でも、実践していく中でこんなに変われるんや、って驚きの連続ですね」

 以前はマウンドで「打たれたらどうしよう」と不安になっていたが、今は「何の不安も持たない。マウンドで視野が狭くなることもない」と目を輝かせて話す。今までに感じたことのない充実感。まるで野球少年のように、今は野球を楽しんでいる。
 結果はすぐには出なかったが、夏場になるとついに本領発揮。7月8日から8月24日まで7戦連続で白星をマーク。7月には自身初の月間MVPにも輝いたのだ。

14日から上位2チームと6連戦。ともに「初戦」に先発

 昨年までのホークスでは、杉内は「ワッチ(和田)がいるから」、そして和田は「スギがいるから」と、互いがライバル関係として認め合い、高め合っていることを口にしていた。
 攝津が今の大隣との関係を語った。
「僕もトナリの事は意識します。アイツの方が僕よりプロ入りが早いけど、僕もある程度数字は残してきた。負けるつもりはない。切磋琢磨して競い合えば、良い結果がついてくる。お互いに遠慮しないでやっていきたい」

 逆転優勝に向けて、秋山幸二監督も夏場からは2人をそれぞれ3連戦の初戦に投げさせるローテを組んでいる。
 そして現在は運命の9連戦真っただ中。最初のカードの楽天戦を2勝1敗で戦い終えたソフトバンクは、14日から日本ハム、17日からは埼玉西武との直接対決6試合に臨む。

「自分が投げる試合は全部勝つ。それが僕の役目」(攝津)
「11勝挙げた08年は最下位でした。今年こそ、リーグ優勝と日本一を心から喜べる年にしたい」(大隣)
 大隣は14日に先発。攝津は前回登板から中5日で17日に先発することが濃厚だ。

<了>

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著者プロフィール

 1978年8月18日生まれ。熊本県出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。2002年卒業と同時に、オフィシャル球団誌『月刊ホークス』の編集記者に。2004年8月独立。その後もホークスを中心に九州・福岡を拠点に活動し、『週刊ベースボール』(ベースボールマガジン社)『週刊現代』(講談社)『スポルティーバ』(集英社)などのメディア媒体に寄稿するほか、福岡ソフトバンクホークス・オフィシャルメディアともライター契約している。2011年に川崎宗則選手のホークス時代の軌跡をつづった『チェ スト〜Kawasaki Style Best』を出版。また、毎年1月には多くのプロ野球選手、ソフトボールの上野由岐子投手、格闘家、ゴルファーらが参加する自主トレのサポートをライフワークで行っている。

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