“負け”を知った王者・大阪桐蔭が全員でつかみ取った決勝

松倉雄太

唯一“負け”を突きつけられた明徳義塾との準決勝

春夏連覇へあと1勝とした大阪桐蔭高。連覇にはエース・藤浪の活躍が鍵を握る 【写真は共同】

「全員の力を合わせて、やっとここまでたどり着いた」

 準決勝で明徳義塾高を破り、春夏連続優勝へあと一つと迫った大阪桐蔭高・西谷浩一監督は、やや感慨深げに話した。

 今日の準決勝。エース・藤浪晋太郎が明徳義塾高を相手に2安打完封。打線は1回に4番・田端良基の犠牲フライで1点を先制すると、6回には2死一、二塁から5番・安井洸貴が2点タイムリー二塁打。さらに6番・笠松悠哉がレフトへのタイムリーで続いた。
 この4点は今日の藤浪には十分過ぎる援護となった。敵将・馬淵史郎監督に、「力負けですね」と言わしめるピッチングで、決勝のステージをつかみ取った。

 明徳義塾高とは、今年6月に高知県の招待試合で対戦している。西谷監督が「試合巧者のチームと戦いたい」と申し込んでのものだった。
 結果は1対4で敗退。エース・藤浪が打たれ、完敗だった。今年、大阪桐蔭高が公式戦、練習試合を通じて唯一敗れたのが明徳義塾高だった。
 今日の対戦を終えて西谷監督は答えてくれた。

「明徳さんと、試合をやったかいがありました」

 チームが負けを知らない中で、指揮官が恐れていた慢心。はた目には表れなかったそうだが、負けていないという事実が何かを忘れさせていたのかもしれない。
 だが、この時に突きつけられた負けと言う事実は、夏の“頂”を目指すチームに良いカンフル剤になった。

藤浪「勝たないと意味がない」、春夏連覇へ相手は光星学院

 今日の試合で、それを象徴するポイントがある。それは、1番・森友哉と4番・田端がヒットを打っていないこと。相手が警戒する二人が打たなくても、ほかの打者で追加点を奪ったのだ。
 6回に、田端の死球の後、2点二塁打を放った安井は、「そう多くはチャンスがこない。ここで自分が打たないと」と腹をくくっての打席だったと話した。

 いくら藤浪が良いピッチングを続けていたとはいえ、1点差では試合巧者・明徳義塾の恐ろしさが終盤にくる。どうしても突き放しておかなければいけない場面だった。
 あの6月を経験したからこそ、その意識を全員が強く共有でき、安井の二塁打に乗り移ったと言える。
 7回と8回は三者凡退。結局、大阪桐蔭が放ったヒットはわずか5本。やはり明徳義塾は強くて、戦いにくい相手だった。

 最後に藤浪は今日を振り返って、「調子は良くなかった。1点差のつもりで、慎重に最後まで投げられた。点数は65点くらいです」と言った。
 甲子園初完封……しかも被安打2という内容にも、満足感を見せなかったのだ。西谷監督が、「それはなぜか聞いてみたいですね」と言うほどの向上心を見せた藤浪。長い高校野球生活でラストの日となる明日へ向けて、「勝たないと意味がない」とエースはさらに気を引き締めた。そして大阪桐蔭高、春夏連覇へ向けての相手は、選抜大会決勝で戦った最大のライバル・光星学院に決まった。

<了>
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著者プロフィール

 1980年12月5日生まれ。小学校時代はリトルリーグでプレーしていたが、中学時代からは野球観戦に没頭。極端な言い方をすれば、野球を観戦するためならば、どこへでも行ってしまう。2004年からスポーツライターとなり、野球雑誌『ホームラン』などに寄稿している。また、2005年からはABCテレビ『速報甲子園への道』のリサーチャーとしても活動中。

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