「4位」という結果から得た収穫と課題=U−23日本代表総括

小澤一郎

引いた相手の崩し方、大会でのピーキングに課題

韓国に敗れ、がっくりと下を向く吉田。6試合にスタメンフル出場し、チームを支えた 【写真:ロイター/アフロ】

 逆に課題としてはっきり見えたのは、アジア予選の時から未解決のままだった引いた相手を崩すための攻撃。躍動感あふれるカウンターサッカーで1次リーグを首位通過した日本をしっかりと分析したメキシコ、韓国はしっかりと日本対策を講じてきた。両国に共通していたのは、永井に突かれると怖いスペースを消し、日本の前線からのプレスを警戒して深めの位置から逆サイドや対角線へのロングボールを多用することだった。ある意味で、ボールを持たされ、遅攻せざるを得ない状況下に置かれたわけだが、選手たちはカウンターサッカーの時と似たような感覚で素早く前線の永井めがけてボールを入れていき、ことごとく相手の守備網に引っかかっていた。清武も韓国戦後に「引かれたときにどう崩すかは課題」と口にしていた。

 また、スペイン戦後のコラムで不安材料として挙げたピーキング(調整)の問題も課題として残った。大会前の日本の目標がまずは1次リーグ突破で、そのためにも勝ち点が欲しい初戦のスペイン戦にピークを合わせるのは間違いではなかった。さらに、中2日の試合が続く過密スケジュールと試合ごとに会場が替わる移動の問題から、大会に入ってからのコンディション調整は難しく、関塚監督をはじめとするチームスタッフのミスと批判することはできない。ただし、直前の親善試合3試合であれだけ先発メンバーや選手のポジションを入れ替え、バックアップメンバーにもたっぷりと出場機会を与えておきながら、本大会に入りメンバーを固定し過ぎたさい配には苦言を呈しておきたい。

 決勝トーナメント進出を決めた後、第3戦のホンジュラス戦ではうまく選手を入れ替えたとはいえ、五輪で今回の日本が採用したカウンターサッカーで勝ち抜くためには少なくとも前線のターンオーバーは必須だった。杉本健勇や宇佐美貴史の使われ方も中途半端で、リードされた状況で投入された杉本、宇佐美がピッチに足を踏み入れた瞬間にチームへ何も伝えず(監督からの具体的な指示がなかった証拠)、前線でターゲットとなるべき杉本がサイドに流れてボールを受ける、ないしはクロスを上げるシーンが何度かあるなど交代カードの意図が不明確な面も見えた。

状況に応じて戦い方を使い分けることが重要

 とはいえ、ここで挙げた2つの課題は個別のものではなく2つがセットとなっており、収穫と課題も表裏一体だ。どれほどいい準備をしてコンディションを整えても、消耗の激しいカウンターサッカーで五輪のような大会を勝ち抜くことは難しい。だからこそ、ポゼッションサッカーの精度を高めてボールとエネルギーのロスを最小限に抑え、引かれた相手、状況でも崩せるサッカーを身に付けておかなければいけない。収穫のところでサッカーのダブルスタンダード化と記したが、ポイントはアジアでも世界でも対戦相手や試合状況に応じてそれぞれのサッカーを使い分けることであって、「アジアではポゼッション」、「世界ではカウンター」とはっきり区分けすることではない。

 そのためには育成年代からポゼッションサッカーをベースとして、相手を崩すためのパスワーク、時間もスペースがないエリアでも有効なプレーができるシャープなボールフィーリングを身に付ける必要があるのだが、日本の育成の現状はいまだ「カウンターかポゼッションか」の二者択一となっている。いずれのサッカーでも選手にパーフェクトスキルを身につけさせるためには、ポゼッションをベースとしたチーム作り、サッカーの中で選手個人のベースを上げていくのが唯一絶対とまでは言わないものの王道。つまり、育成年代におけるポゼッションサッカーはスタイルや流行ではないのだ。今や世界中の育成機関がバルサを真似てポゼッションをベースとした「いいサッカー」を育成年代から目指しているが、それは「模倣している」のではなく、どのサッカー大国も「いい選手はいいサッカーの中から育成される」という原理原則をおさえているからだろう。

育成でまだやるべきことがある

 メキシコ、韓国に連敗したゲームで本質的に明らかになったことは、大会前に習得したカウンターサッカーが通用しなかったわけでも、戦術や監督のさい配が当たらなかったわけでもなく、育成年代から積み上げである個のスキルやチームとしてのポゼッション能力が総体的に低かったというベース部分の課題だ。ベースがあった上で、五輪、W杯で勝つためのシステムや戦術論を議論することは大いに結構だが、日本の育成の現状はそうなってはいない。各カテゴリーでリーグ戦化が進んでいるとはいえ、ロングボールを多用した一か八かのカウンターサッカーが有効となるような一発勝負のトーナメント大会が各年代で「最も重要な大会」として根付いている。言い換えれば、大会の存在やフォーマットが選手育成の足を引っ張る状態がいまだ続いている。

 五輪やW杯のような国際大会は、結局のところ育成から長い年月をかけて積み上げてきたスキルやサッカーが通用するものなのかどうかを試す答え合わせの場。確かに戦える選手、世界を驚かせるスピードや組織力が日本にあることもわかってきたが、だからといって「日本の育成はうまくいっている」という評価をここで下してしまうことは危険。南アフリカW杯同様に、今回のロンドン五輪でもボールを持った状態でどう相手を崩すのかという部分がはっきりとした課題で出たということは、日本の育成でまだ解決されていない課題、やるべきことがあるという証拠だろう。

 メダルを逃してしまったことは残念ではあるが、メダルを獲得していれば各メディアから感動エピソードが湧き出し、過剰な持ち上げ方をされたということを想像するならば、収穫と課題を冷静に見つめ、育成を見つめ直すことができるロンドン五輪での「4位」という結果は悪くない結果だ。

<了>

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著者プロフィール

1977年、京都府生まれ。サッカージャーナリスト。早稲田大学教育学部卒業後、社会 人経験を経て渡西。バレンシアで5年間活動し、2010年に帰国。日本とスペインで育 成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論やインタビューを得意とする。 多数の専門媒体に寄稿する傍ら、欧州サッカーの試合解説もこなす。著書に『サッカ ーで日本一、勉強で東大現役合格 國學院久我山サッカー部の挑戦』(洋泉社)、『サ ッカー日本代表の育て方』(朝日新聞出版)、『サッカー選手の正しい売り方』(カ ンゼン)、『スペインサッカーの神髄』(ガイドワークス)、訳書に『ネイマール 若 き英雄』(実業之日本社)、『SHOW ME THE MONEY! ビジネスを勝利に導くFCバルセロ ナのマーケティング実践講座』(ソル・メディア)、構成書に『サッカー 新しい守備 の教科書』(カンゼン)など。株式会社アレナトーレ所属。

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