浮上への鍵は“アンバランスな”攻撃サッカー=G大阪に求められる攻め切る覚悟

下薗昌記

大はずれだった開幕前の補強

途中就任の松波監督はいまだチームを立て直せず。とはいえ、この若き指揮官に責任を押し付けるのは酷だろう 【写真は共同】

 近年のJリーグで最も安定した成績を残してきた「西の横綱」が、文字通り徳俵に足をかけている。リーグ序盤にクラブ史上初の開幕3連敗を喫し、セホーン前監督を早々に更迭。立て直しを託された「ミスターガンバ」松波正信監督の就任後も、AFCチャンピオンズリーグで2チームがグループリーグを勝ち上がる現行方式になってから、初めて決勝トーナメント進出を逃したり、リーグ戦でも依然、17位に低迷したりとクラブがいまだ経験したことがない残留争いを強いられている(第20節終了時点)。

 4節から指揮を執るリーグ戦の戦歴は4勝5分け8敗と、およそ立て直しには程遠い成績しか残せていないクラブ史上最年少の生え抜き監督ではあるが、この数字のすべてを松波監督に押し付けるのは酷というものだ。

 今季序盤の低迷は、あまりにも無策だったブラジル人指揮官の力量不足もさることながら、補強の失敗もその大きな要因だ。選手の自主性と、アドリブに近い采配(さいはい)を理解する高い戦術理解力を求める西野サッカーを支えた山口智と橋本英郎といったチームの頭脳を放出したばかりか、開幕前の補強も大はずれ。リーグ戦8試合で無得点だったイ・スンヨルは早々に期限付き移籍で放出され、長年の懸案だった両サイドバックをこなすとの触れ込みだったエドゥワルドも、20節を終えてリーグ戦の出場はゼロと全く戦力になり切れていない状況である。また、負傷離脱を繰り返す新エース候補だったパウリーニョも4得点と、いまだその力を見せきれていない。

低迷の時期を象徴するキーワード

 そんな苦しい持ち駒もあって、就任当初から繰り返さざるを得なかった試行錯誤が、結果的にさらなる迷走をチームにもたらすことになる。「攻撃でリズムが出ていない。まずは攻撃でゴールを奪いに行き、その後で守備を」(松波監督)と当初は、昨年までのチームスタイルを踏襲する意向を見せていたが、昨年ほどの得点力がない上に、新加入した今野泰幸の持ち味が全く出せなかった守備陣は、安定には程遠く20節を終えた段階でリーグワースト2位の42失点。

 攻めに軸足を置けば、守備が持ちこたえきれず、守備的に入ると今度は攻撃陣が沈黙する悪循環……。そんなチーム内のジレンマが悪い形で結実したのが衝撃的な逆転負けを喫した5月末のサガン鳥栖戦だ。2点をリードしながら1点を献上したチームは「前は攻めに行きたい。後ろは守りたいで間延びした」(松波監督)。昇格チーム相手に失った勝ち点3の喪失感もさることながら、振り返ればこれを機に、指揮官は、攻守の狭間で頭を悩ませることになる。

 低迷から抜け出せなかった時期を象徴する松波采配のキーワード「バランス」は、おそらく鳥栖戦のトラウマがもたらしたものだろう。

 一方で問われるべきは経験の少ない指揮官の手腕だけではない。「同じような戦いを続けてしまっているのは、戦っている僕ら選手の責任も大きい」。今野が悔しげにつぶやいたように、アディショナルタイムに勝ち越し点を献上したのは鳥栖戦を含めて計4試合。「チャンスで決め切れていないし、勝ちたい気持ちが強すぎて前がかりになって必要のないミスが起きている」と遠藤保仁は振り返ったが、開始早々の失点癖とロスタイムの被弾の多さは、遠藤と今野の現役代表を筆頭に、明神智和ら酸いも甘いもかみ分けるベテランを抱えるチームとは思えない試合運びのまずさがもたらしたものだ。

 監督の選定を含めた補強で致命的な失敗を犯した強化部と、経験の少なさが否めない若き指揮官、さらにピッチ内で同じミスを繰り返す選手たち――。開幕前は誰もが予想しなかった降格圏内への低迷は、ある意味で必然と言えるだろう。

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著者プロフィール

1971年大阪市生まれ。師と仰ぐ名将テレ・サンターナ率いるブラジルの「芸術サッカー」に魅せられ、将来はブラジルサッカーに関わりたいと、大阪外国語大学外国語学部ポルトガル・ブラジル語学科に進学。朝日新聞記者を経て、2002年にブラジルに移住し、永住権を取得。南米各国で600試合以上を取材し、日テレG+では南米サッカー解説も担当する。ガンバ大阪の復活劇に密着した『ラストピース』(角川書店)は2015年のサッカー本大賞で大賞と読者賞に選ばれた。近著は『反骨心――ガンバ大阪の育成哲学――』(三栄書房)

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