浮上への鍵は“アンバランスな”攻撃サッカー=G大阪に求められる攻め切る覚悟

下薗昌記

今季のチームに欠けていた「イケイケ感」を醸し出す

後半戦は新加入したレアンドロを軸にどこまで攻め切ることができるかが、反攻への鍵となる 【写真は共同】

 ただ、チームは遅まきながら立ち直りの予兆を見せている。昨年もアドリアーノが電撃移籍したように、毎年のようにエースFWを引き抜かれ、夏場以降に苦しい戦いを強いられてきたG大阪が今年は「奪う立場」に立ち位置を変えた。「シーズン途中にこれだけ補強に力を入れるのは初めて。センターFWとセンターバック(CB)が松波監督からのリクエストだった」。的確な動きを見せたのは今季途中から強化本部のトップに立つ梶居勝志強化本部長である。

 3年前のエースだったレアンドロに続いて、蔚山現代からやはり家長昭博を獲得。攻撃陣にテコ入れを図ったばかりか、中澤聡太の長期離脱もあったCBに清水エスパルスから岩下敬輔も加わり、「ウインドーが閉まるまでは分からない」(梶居強化本部長)とさらなる選手の獲得も模索中だ。

 3年前はシーズン途中でクラブを後にしたブラジル人ストライカーは「ガンバのようなビッグクラブで背番号9を背負う意味は分かっている。自分の役割は点を決めて、チームを勝利に導くこと」。勝ち点6差で迎えた大宮アルディージャとの直接対決は、文字通り「絶対に負けられない戦い」だったが、早くもレアンドロ効果が表れた。

 先制される苦しい展開ながら、レアンドロがPKを含めた2得点で逆転勝ちに貢献。わずか7分間で3得点のゴールラッシュは、今季のG大阪に欠けていたホーム万博記念競技場での「イケイケ感」を醸し出した。

家長をいかにチームに組み込むのか

 大宮戦では加入後3試合目のレアンドロとパウリーニョが初めて先発で2トップを構成したが、迷い続けていた指揮官の選択にも変化が見え始めている。さらなる失点を恐れるがゆえに、ビハインドを追いかける展開でも、まず守備の選手を投入し「アクセルを踏む前にブレーキを掛ける」自己矛盾的な選手交代を選択してきた松波監督。ただ、レアンドロを初先発させたヴィッセル神戸戦を前に「本来はパスを動かして崩し切るのがスタイルだし、もう一度それを取り戻していく。夏場なのでボールを動かすことは守備面以上に大事になる」と攻撃的なスタイルに原点回帰を示唆していた。

 やはり、迫力ある攻撃陣を有することが、守備陣に好影響を与えるのがG大阪だ。「攻め続けることで、守っているようなものがガンバというチーム」と今野が言えば、その積極的なラインコントロールでチームの生命線もあるコンパクトさを保ち続ける丹羽大輝も「無失点は理想だけど、ガンバはたとえ失点してもそれを上回る点を決めて勝つチーム」。

「思ったより周囲を使うタイプだし、タメもできる」(松波監督)レアンドロの存在で、大宮戦では攻守において相乗効果が生まれていたが、今後問われるのは文字通り指揮官の手腕である。エースのレアンドロのフル稼働は大前提で、それに加え戦術的にチームに組み込むのは難しいものの、「個のキープ力とドリブル突破ができる」(明神)、「前を向いてボールを持たせれば何でもできる選手」(遠藤)とチームメートが褒めたたえる家長をいかにチームに組み込むのか――。また、安定しつつある丹羽と今野の両CBと岩下の起用法も、見どころとなる。

「先に点は取られてしまったけど、あのビハインドをひっくり返していい時のガンバのサッカーを発揮できた」と大宮戦後に胸を張ったのは遠藤だ。チームに求められるのはこじんまりした「バランス」ではなくて、時に破天荒にさえ見える「アンバランス」なアタッキングサッカー。夏場の本格反攻に向けて、持ち駒はそろった。後は「青き血が流れる」と自負する若き指揮官の攻め切る覚悟だけだ。

<了>

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著者プロフィール

1971年大阪市生まれ。師と仰ぐ名将テレ・サンターナ率いるブラジルの「芸術サッカー」に魅せられ、将来はブラジルサッカーに関わりたいと、大阪外国語大学外国語学部ポルトガル・ブラジル語学科に進学。朝日新聞記者を経て、2002年にブラジルに移住し、永住権を取得。南米各国で600試合以上を取材し、日テレG+では南米サッカー解説も担当する。ガンバ大阪の復活劇に密着した『ラストピース』(角川書店)は2015年のサッカー本大賞で大賞と読者賞に選ばれた。近著は『反骨心――ガンバ大阪の育成哲学――』(三栄書房)

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