そんな田辺コーチとともに今年のキャンプで取り組んだのが打撃フォームの改造だ。
　今年のキャンプ、Ｂ班（２軍）スタートとなった星はアーリーワーク（早朝練習）で革手袋を着けずに素手で打撃練習をしていた。それを見た田辺コーチが「素手の方が良い軌道でスイングするな」と声を掛けた。その日、試しに革手袋なしで出場した練習試合で３安打。「素手の感覚って良いな」と思っていた星に田辺コーチが勧めたのが“ミスター・タイガース”として活躍した元阪神・掛布雅之氏の打撃フォームの連続写真だった。

　プロに入る前から大の阪神ファンだったという星。子どもの頃にモノマネをする程度のことはしていたものの、まさかプロ野球選手になってその打法を“マネ”することになるとは――。
「星の悪いクセを矯正するのに向いていた」と田辺コーチは掛布氏の打撃フォームを勧めた理由を話す。

　入団から７年間、見続けてくれたコーチからのアドバイス。その日からフォーム改造に取り組んだ。
「今までのフォームとは全く別物ですからね。だって今まで後ろで打とうとしていたものを前にしているわけですから」
　田辺コーチも「今年は全部ぶっ壊すつもりで、勝負をかけている」と語る。

　勝負をかけて臨んだ今季、４月１７日に１軍に昇格すると、要所での勝負強い打撃が光った。
　今や打撃フォームだけでなく、バッターボックスでのルーティン、打席を外して土を触る仕草まで、掛布氏のそれと似ている。
　新しく取り組んだ“掛布打法”が功を奏し、ここまで全ての成績で自己最高記録を更新。本人は「恥ずかしい」と話すが８年目で待望のプロ初本塁打も放った。

　そして、８月２日には、故郷・群馬県前橋市で開催された公式戦に帯同し、凱旋を果たす。先発が左腕投手だったこともあり、スタメン出場こそはならなかったものの、８回裏から代打で出場。星の登場曲が流れ、彼の名が呼び出されると、観客席から大きな歓声と拍手が沸き起こった。また延長１０回裏に迎えた第２打席でヒットを放つと、球場内はさらに大きな盛り上がりを見せ、良い成績を残している星への、故郷の期待度の大きさを感じさせた。

　毎年が勝負、今年ダメなら辞めなければいけない。そんな危機感もある。だからこそ取り組んだ打撃フォームの改造。その背中を押してくれたコーチの存在。
　誰もが「努力家」だと証言する星の汗と涙がようやく結実するときがきた。

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