U−23日本代表メンバー選考に見られた2つの特徴=ロンドン五輪での戦い方に変化はあるのか

小澤一郎

戦い方そのものに変化はあるのか

杉本の選出は、戦い方が変化する可能性を示している 【写真:アフロ】

 もう1つの特徴がFWの人選に変化があったこと。アジア最終予選6試合のうち4試合に先発した大迫勇也が外れたのが今回の五輪メンバー最大のサプライズであったが、メンバー入りした永井、大津、杉本というFWの顔ぶれを見た時にはっきり分かるのはアジア最終予選の時とは若干異なる選考基準だ。前線の選手選考、特に杉本の選出理由について質問を受けた関塚監督は、「日本の良さである今の距離感、個人のサイドの縦への突破などが大事になってくる」とした上で、「高さ、ゴール前での迫力を今の杉本に期待することでもあります。足も振れるし、連続した動きもできます。そのあたりを期待しています」と説明した。

「サイドの縦への突破」が攻撃におけるキーポイントとして挙げられたように、今回の選考からして関塚監督は1トップにもサイドに流れるプレーや突破という機動力を求めているようだ。ボールとイニシアチブ(主導権)を握れるアジア予選の中では、前線でどっしりと構えてポストプレーをこなし、チームのストロングポイントである1.5列目の選手に前向きにボールを預けるタスクが重要視されていたが、今回の人選ではそれ以上に攻め込まれる時間が多い中で1トップとしてどうスペースを生かし、個でサイド、局面を打開するかが重視されている印象を受けた。

 そうなると五輪に向けた戦い方そのものの変化も予想できる。わたし自身、会見で関塚監督に聞きたかったのは「なぜあの選手が選ばれなかったのか?」「なぜあの選手よりこの選手の方がいいのか?」という選手の当落基準の話ではなく、このメンバーからどういう戦い、ゲームプランが読み取れるのかという部分。よって、「本大会に向けてイメージされているサッカーについて、FWの人選が少し変わったところから受ける印象だが」と前置きした上で、「アジアの予選と五輪のような世界大会になると、少しサッカーのイメージを変えられているのかなと思う。関塚監督自身は初戦のスペイン戦を含め、アジア予選でやってきたような、日本が常にイニシアチブを握るサッカーを変えていくイメージはあるのか?」という質問を投げた。

 少しまどろっこしい表現にはなっているが、要するにこの前線のメンバーからして初戦のスペイン戦のみならず、大会を通して堅守速攻のカウンタースタイルにサッカーの比重が置かれている印象を受け、それを関塚監督に確認したかったということ。わたしの質問に対する関塚監督の回答はこうだった。

「基本的にはその(サッカー)イメージを変えようということはありません。トゥーロンの3試合は1つ、自分たちを見直して、ヨーロッパの国と戦う上での距離感、われわれの立ち位置が非常に分かった部分はある。その中でも自分たちがやれたこともありますから、それを多くするという点では変えたいと思う。

 ただやはり、スペインは今朝(2日早朝)もユーロ(欧州選手権)でチャンピオンになりましたが、そこに対して自分たちがイニシアチブをとれるか、どういう戦いをしていくのか、チームとしての方向性を持って、一戦一戦、戦っていく。そのスタンスは僕自身持っていて、選手たちとともに臨んでいきたいと思っている。目指すものは守備も攻撃もしっかりコンパクトにやっていく。攻撃のところでは、実際にトゥーロンに行っても、ヨーロッパとやるから下がって、という戦い方をしたわけでもないですし、見えてきたものを本大会で生かすような準備をしていきたい」

メンバーが決まった以上、サッカーについて語るべき

 単純に「カウンター志向」を宣言する前線の選考ではないということだが、そもそもこうした世界大会のメンバー発表というのは選手個々の当落の話を語るための材料ではなく、「どんなサッカーを見せてくれるのか」という展望を語り合うためのヒントだと考える。

 五輪への本気度という観点から見れば、香川真司や宮市亮といったA代表に入る五輪世代の選手がメンバー入りしなかった点、18名の中に3名使えるはずのOA枠が2名しか使われなかった点(35名の予備登録メンバーに入ったGK林彰洋はバックアップメンバー)など、不可解な点があるのも事実ではあるが、五輪期間中も開催されるJリーグや6月にワールドカップ・アジア最終予選3試合を戦ったザックジャパンのスケジュールを考えると容易なメンバー選考ではなかったことも理解できる。

 晴れて18名のメンバーが出た以上、五輪前の親善試合3試合も含めて選ばれた選手やチームのパフォーマンス、仕上がりに目を向けてサッカーについて語っていく必要があるのではないか。

<了>

2/2ページ

著者プロフィール

1977年、京都府生まれ。サッカージャーナリスト。早稲田大学教育学部卒業後、社会 人経験を経て渡西。バレンシアで5年間活動し、2010年に帰国。日本とスペインで育 成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論やインタビューを得意とする。 多数の専門媒体に寄稿する傍ら、欧州サッカーの試合解説もこなす。著書に『サッカ ーで日本一、勉強で東大現役合格 國學院久我山サッカー部の挑戦』(洋泉社)、『サ ッカー日本代表の育て方』(朝日新聞出版)、『サッカー選手の正しい売り方』(カ ンゼン)、『スペインサッカーの神髄』(ガイドワークス)、訳書に『ネイマール 若 き英雄』(実業之日本社)、『SHOW ME THE MONEY! ビジネスを勝利に導くFCバルセロ ナのマーケティング実践講座』(ソル・メディア)、構成書に『サッカー 新しい守備 の教科書』(カンゼン)など。株式会社アレナトーレ所属。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント