トーナメントチームの本領を発揮したドイツ=“死のグループ”を3連勝で1位通過

中野吉之伴

課題を消化しながら結果を出すことができる

デンマーク戦では初スタメンのベンダー(白)が決勝ゴールを挙げる活躍。控え選手が結果を出すことで、優勝への道は近づいてくる 【Getty Images】

 ドイツは「トーナメントチーム」と呼ばれており、1試合ずつ課題を消化しながら、結果を出すことができる。今回も3試合を通して調子を上げてきている。初戦のポルトガル戦は大会を勝ち抜くために何より大事な守備における安定がキーポイントとなった。特にポルトガルの世界最高峰の選手、クリスティアーノ・ロナウド対策のためにキャプテンのフィリップ・ラームを右に回すのか、というディスカッションがされていた。

 しかし、監督のヨアヒム・レーブは「1人の選手を止めるために4バックをいじくるのはありえない。そもそも彼との1対1を作らせないことが大事」とラームをこれまで同様4バックの左で起用し、右にはバイエルンのジェローム・ボアテングを起用した。

 ポルトガルは細かいパス回しからリズムを作り、個人技のある選手が決定的なアクションをすることでチャンスを作ろうとするが、狭いエリアでの足元へのパスがどうしても多くなるために、我慢強く対応するドイツ守備陣を揺さぶりきることができない。何度かあった危ない場面も危機感知能力の高いDFが最後の場面で体を張ってブロック。GKマヌエル・ノイアーのファインセーブもあり、無失点で切り抜けた。

 2戦目のオランダ戦は、安定した守備にプラスアルファしてビルドアップからのチャンスメークがポイントとなった。初戦に比べると前線の選手の動き出すタイミングが良くなり、また攻撃陣に比べ守備陣に問題を抱えるオランダのチーム事情も幸いして、ドイツはリズミカルにパスを回しながらオランダの守備のずれをつくことができた。オランダの選手は相手の動きにつられて、ついていってしまう傾向が強く、ゴメスはこの時にできるスペースに顔を出すようにと、レーブ監督から指示を受けていたそうだ。そして、2得点ともまさに味方選手の動きに相手DFがついていってできたスペースに、ゴメスが顔を出して決めたものだった。

 3戦目のデンマーク戦は、攻撃のスピードアップがテーマになった。この試合では試合開始から奪ったボールをすぐに前線の選手に預けるシーンが多く見られた。トーマス・ミュラー、メスト・エジル、ポドルスキの3選手がポジションを頻繁に替えながら、後ろからのボールを引き出してボールをキープ。そこから短いパス交換やスルーを交えて相手守備の裏に何度も危険な飛び出しを見せた。その動きにデンマークDFは翻弄(ほんろう)され、ゴールシーンのほかにもミュラー、サミ・ケディラ、エジルといった選手が素晴らしいコンビネーションプレーから惜しいシュートを放つシーンが何度か見られた。

ドイツが優勝するためには

 1試合ごとに課題を克服し、グループリーグを3戦3勝で決勝トーナメント進出を決めたドイツだが、念願の優勝を果たすためにはもう1つ2つギアを上げなければならない。全体的に良くなっているが、攻守の切り替えの速さ、決定的な場面での思い切り、パスの精度といった1つひとつのプレーの質をさらに上げていくことがやはり大事となってくる。

 次に挙げられるのがトップフォームのエジルだ。彼にしかできないアイデアのあるパスやドリブルは確かに見られるし、1試合ごとに良くなってきているが、まだベストフォームとは言えない。チーム全体の攻撃のリズムを作り出すのがシュバインシュタイガーとケディラならば、ゴールへの門を開けるのがエジルの仕事である。パス交換をしながら相手守備をずらし、そのほころびを狙うのがエジルのスタイルなのだが、ゴール前で待つタイプのゴメスとのコンビがまだしっくりきていない。それでも、デンマーク戦の前半にはいくつかいいチャンスを作れていた。あとはその頻度と質を上げていくことが重要になる。

 3つ目に挙げるのは控え選手の活躍。デンマーク戦の後半、ゴメスが相手のハードな守備に苦労するとレーブ監督はクローゼを起用し、前線を活性化。ラルス・ベンダーの決勝ゴールを呼び込んだ。終盤ボールを落ち着けたいときはトニ・クロースを起用。さらに、ドイツ最大の至宝と呼ばれるドルトムントのマリオ・ゲッツェや今シーズン躍進したメンヘングラッドバッハの立役者、マルコ・ロイスといった若武者が出番を虎視眈々(たんたん)と待っている。ボアテングが出場停止のデンマーク戦では、初スタメンを果たしたベンダーが前述のように決勝ゴールと結果を出した。

 キャプテンのラームが「僕らはスタメン11人だけではなく、あるいは14人だけがいい選手というチームでもなく、ここにいる全選手がいい選手というチーム。誰が出てもチーム力は下がらない」と話していたが、彼ら控え選手が訪れるチャンスでしっかりと結果を出すことで優勝への道が見えてくるはずだ。

<了>

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著者プロフィール

1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU15チームで研修を積み、016/17シーズンからドイツU15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。

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