混迷極まるオランダ、地元紙は「屈辱」と大見出し=オランダ 1−2 ドイツ

中田徹

対戦国も「オランダはチームになっていない」

ガックリと肩を落として引き上げるファン・ぺルシ(左)らオランダの選手たち 【Getty Images】

 13日に行われたドイツ戦の敗戦翌日、オランダの新聞は「屈辱」と大見出し。小見出しには「DF、弱し。攻撃、力不足。交代策、結果につながらず。しかし、われわれはまだ敗退が決まってない」と打った。

 1−2というきん差の敗戦。しかし、試合内容は完全にドイツのもの。オランダにとってはぐうの音も出ないほどの完敗だった。

 オランダ人がガッカリしているのは、代表チームがあまりにチームの体をなしてないことだ。2010年南アフリカワールドカップ(W杯)におけるオランダは「優勝」という目標にチームがひとつにまとまり、選手たちがエゴを捨てて戦った。守備に明らかな欠点のあるチームだったが、前線の選手たちがハードワークをすることによって弱点のカモフラージュに成功。準優勝という結果を出した。

 あれから2年。キャプテンのファン・ボメルは35歳。その他の主力選手たちも30歳前後とあって、オランダにとって今回のユーロ(欧州選手権)2012は最後の優勝のチャンスとして臨んだ大会だった。しかし、ふたをあけてみるとチームはバラバラ。その一体感のなさはオランダ人のみならず、対戦国のデンマーク、ドイツの選手、専門家たちも「オランダはひとつのチームになってない」と感じている。

 ファン・マルワイク監督には多くの批判が飛んでいる。デンマーク戦の「彼には“プランB”がない」という識者の意見が代表的なものになるだろう。W杯では11人のレギュラーメンバーをほとんど固定することによって、チームの安定性とオートマティズムを熟成させていった。今回もそのアウトラインは変わらない。しかし、ユーロにおけるオランダは試合の立ち上がりこそ、意欲的に相手ゴール前に迫るが、前半半ばに失点すると失速。チームが前後に分断され、中盤の広いスペースを突かれてボールを回され始めた。その後はフンテラール、ファン・デル・ファールト、カイトを投入するも、かえってチームは混乱を深めるばかり……といったことを2試合も繰り返してしまった。

機能しない中盤の守備

 実は大会前、「オランダがビハインドを負った時、ファン・マルワイク監督はどういう策を持っているのだろう!?」という懸念の声がオランダで上がっていた。これまでのオランダはファン・ホーイドンクやヘネホール・オフ・ヘッセリンクといったヘディングの強いストライカーを終盤のパワープレー要員として準備していた。野球が盛んなオランダで彼らは「ピンチヒッター」と呼ばれているのだが、今回のオランダにはそういった切り札となる存在がいない。

 もちろん長身選手の投入だけが反撃策ではないのだが、それではファン・マルワイク監督の策は何か、となると何もないのである。だからオランダで「ストライカーはフンテラールか、それともファン・ペルシか!?」といった議論が起こったとき、「やはりファン・ペルシだろう。フンテラールをストライカーに、ファン・ペルシを右ウイングに使ってしまうと、負けていてもフンテラール投入の策すらとれなくなる」といった意見があったほどだった。

 試合中の修正もできなかった。W杯では準優勝に大きく貢献したファン・ボメルとナイジェル・デヨングによる中盤の守備ブロックだったが、今回はまったく機能していない。ドイツ戦ではケディラ、シュバインシュタイガーにピッチの真ん中を面白いように攻略された。デンマークのセンターハーフ、ジーリングも「こんなに中盤にスペースがある中でプレーしたのは初めて」とオランダ戦を振り返っていた。

 こうして操縦不能になった状態でオランダは大部分の時間帯を過ごしたのだ。デンマーク戦後、オランダの新聞は、「オランダのセンターハーフ2人は、デンマークにまったくプレスをかけることができず、ほとんど1対1で戦う場面すらなかった。2人はただ、大きなプールのようになった中盤を泳いでいるだけだった」と容赦ない論評を掲載した。

『4−2−3−1』の『2』を境に前後分断のサッカーに陥ってるオランダを、他国はおちょくっている。オランダの隣人、ベルギーのメディアはデンマーク戦後、「エゴラント 0−1 レゴラント」と見出しを付けた。オランダはエゴの国で、攻撃陣は自分がゴールを奪うことばかり考えている。デンマークはおもちゃのレゴの国という意味のだじゃれである。2−1で勝った後のドイツは「ありがとう、ヌルラント!」(ヌルは数字のゼロ)という見出し。これはおそらく勝ち点ゼロの弱いオランダを揶揄(やゆ)したものだろう。

 それでもまだオランダにはベスト8の可能性が残されている。ドイツが次のデンマーク戦に勝てば、オランダはポルトガル相手に2点差つければいい。

「しかしそれは無理だろう」。ドイツ戦後の深夜、仕事に一息ついた記者がそう言って皮肉っぽく笑った。

<了>
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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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