起死回生の冒険に挑む新生レ・ブルー=地に堕ちた元王者がユーロで復活を目指す

結城麻里

メクセス、ラミ、エブラ……不安材料に転落した守備

直前の強化試合で爆発したリベリー(青)の活躍が、フランス攻撃陣の命運を握る 【写真:ロイター/アフロ】

 懐疑派の理由は、圧倒的に守備の問題だ。

 妙な話だが、実は予選突破までは守備こそがレ・ブルーの好材料だった。守護神ウーゴ・ロリスはもとより、フィリップ・メクセスとアディル・ラミのセンターバックコンビが最高の連係を見せ、次いでメクセスが負傷で離脱しても、次々と優秀なDFを使い回して穴埋め。10試合を失点4で切り抜け、フランスは予選2位の守備力を誇ったのである。不安材料はむしろ、ハッキリしない攻撃陣だったのだ。

 ところが、ここへきてそれが反転してしまった。負傷から復帰したメクセスが、体重オーバーと調整の遅れからミスを連発。メクセスあっての相棒ラミも不安定になってしまった。

 また、肝移植手術で離脱したアビダルの後は“ナイズナのキャプテン”だったエブラが継ぐことになったが、“最もトラウマを背負った男”はマンチェスター・ユナイテッドのようには活躍できず、先日のプレパレーションマッチ第1戦(対アイスランド、3−2)でも、エブラのゾーンから2失点してしまったのである。

 さらに“門番”と呼ばれる中盤の底もハプニングに見舞われた。頼れる若武者だったヤン・エムビラが、やはりアイスランド戦でねんざしてしまったのだ。

ベンゼマ、リベリー、ジルー……火をはき始めた怪物たち

 対照的に攻撃陣は、火を吐き始めた。

 やはり“ナイズナのトラウマ”を引きずるフランク・リベリーは、バイエルンでは大活躍しながら代表では3年以上ゴールしていなかった。それが突然、プレパレーションマッチで毎試合ゴール。3試合で3ゴール1アシストと、“怪物の目覚め”を印象づけた。

 エースのカリム・ベンゼマも、プレパレーションマッチ第3戦(対エストニア、4−0)で華麗なテクニックから2ゴール1アシストをマークし、エレガントなスペクタクルを提供。“レアル・マドリーのベンゼマ”がスナイパーのようにゴールを仕留め始めれば、確かにフランスは恐るべきチームになる可能性がある。

 フランスリーグ得点王に輝いたばかりのオリビエ・ジルーも、この3試合で3アシスト。ベンゼマの交代要員とはいえ、大きなポテンシャルを垣間見せた。

 だがフランス代表は、堅固な守備を持つときに勝ってきたのも事実。ユーロ1984優勝では4失点、98年W杯優勝では2失点である。もっとも、世界王者の守備リーダーだったブラン監督は、ほかの誰よりもそれを熟知しており、「ブランにしてみれば守備陣の最終調整などお手のもの」という見方も根強い。

 そのブラン監督の目標はベスト8だ。基本システムは4−3−3。4−2−3−1や4−4−2も使い分けるが、秘めた野心はバルセロナのように攻撃的スタイルで勝つことだ。

 イングランド戦の布陣は、ほぼエストニア戦に近いとみられている。リベリー、ベンゼマ(トップ)、サミール・ナスリの前線、フローラン・マルーダ、アルー・ディアッラ(門番)、ヨハン・カバイエの逆三角形中盤、エブラ、メクセス、ラミ、マチュー・ドビュッシーの4バック、守護神ロリスだ。

 ユーロ2004でベッカムを擁するイングランドと初戦で激突したフランスは、ジダンのゴールで勝利したが、果たして今回は……? フランス国民はウェイン・ルーニーの出場停止や主力の負傷に一喜一憂中だが、ブラン監督はこう切り返す。

「心配ご無用。どんなに揣摩(しま)臆測をしたところで、ビッグコンペティションでフランスと対戦するときのイングランドは、どっちみち必ず強い」

 起死回生を懸けた冒険が、いま始まる。

<了>

レ・ブルー黒書――フランス代表はなぜ崩壊したか

『レ・ブルー黒書――フランス代表はなぜ崩壊したか』ヴァンサン・デュリュック著 結城麻里訳 定価:本体2200円(税別) ISBN-13:978-4062177238 【講談社】

ヴァンサン・デュリュック 著
結城麻里 訳
講談社刊

定価:本体2200円(税別)
ISBN−13:978−4062177238

その日、トリコロールがないた――。

ドメネク、エヴラ、アンリ、リベリ、そしてジダン――。
“犯人”は誰だったのか?

南アフリカワールドカップ。フランスは、「史上最も醜い敗退」を喫した。
監督侮辱、強制送還、練習ボイコット、キャプテン剥奪、男の嫉妬……。
世界中に恥をさらしたチームの中で、何が起こっていたのか?
「レキップ」紙で20年以上にわたって代表番を務める名物記者が、事件の真相を明かす。

「国辱」に加担した男たち――。

ドメネク――選手の暴走を許した指揮官
アネルカ――暗い闇を抱えた確信犯
リベリ――代表に君臨したがった小キング
アンリ――ひたすら権力を夢見た策士
エヴラ――器に値しなかったキャプテン
トゥララン――連座を余儀なくされた善意の加害者
マルーダ――ツイッターで無言の意思表示をした日和見主義者
グルキュフ――仲間はずれにされていた名手
ジダン――隠然たる影響力を行使する稀代の英雄

ヴァンサン・デュリュック:
フランスで最も権威あるスポーツ紙「レキップ」で、二十数年にわたってフランス代表番キャップを務める大物記者。記者最高位の「グラン・ルポルテール」(偉大なる報道者)の称号を持ち、テレビでも活躍する。長い取材経験に基づく本書は、類書を圧倒するディテールを誇り、惨敗したフランス代表への皮肉も込めて「精緻な死体解剖」と激賞された。

2/2ページ

著者プロフィール

ジャーナリスト、翻訳家。フランス在住14年の経歴を活かし、フランスフットボール界に幅広い人脈を築く。エメ・ジャケ、ローラン・ブランらフランスフットボール界の重鎮をはじめ、フランク・リベリら選手も数多くインタビューした実績を持つ。ジネディーヌ・ジダン、ティエリー・アンリらのインタビューもコーディネートし、「ワールドサッカーダイジェスト」「週刊サッカーダイジェスト」「スポーツニッポン新聞」「スポニチアネックス」「スポルティ―バ」などで活躍する。

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント