ドイツの効率に屈したポルトガル=ドイツ 1−0 ポルトガル

市之瀬敦

優勝候補筆頭のドイツはやはり強い

数少ない決定機をゴールに結びつけたゴメス。勝負を分けたのはこのストライカーの存在だった 【Getty Images】

 さて、今大会の優勝候補の筆頭とされるドイツ代表にも簡単に触れておきたい。一言でいえば、前評判にたがわずドイツはやはり強い。出場16カ国の中でも最も若いチーム(平均24.5歳)であるにもかかわらず、経験不足を感じさせることもなく、安定感は抜群であった。

 特筆すべきはGKノイアーを中心とする守備陣。実は、枠をとらえたシュート数ではドイツよりポルトガルの方が多かったのだが(ドイツが4本だったのに対し、ポルトガルは7本)、常に体を張ったドイツ守備陣は最後までゴールを許さなかった。GKがノイアーでなかったら、C・ロナウドのミドルシュート(82分)も、バレラのシュート(87分)も得点になっていたかもしれない。

 攻撃面ではメスト・エジルがチームの頭脳として躍動。パスコースの選択にもさえを見せ、ベローゾとの競り合いでも優位に立っていた。レアル・マドリーのチームメイト、ケディラのポジショニングも的確で、きちんと攻守のバランスを取っていた。ゴメスのゴールはケディラのクロスから生まれたことは忘れてはなるまい。また、バスティアン・シュバインシュタイガーの出足の良い動きはポルトガルにとって脅威となっていた。

 そして、何よりも決勝点を決めたゴメス。ポルトガルにはいない上背とフィジカルの強さを誇るストライカーは数少ないゴールチャンスを効率よく生かし、英雄となった。ポルトガルにこういう選手がいれば……と思わせるゴールであった。

ポルトガルは生き残れるのか?

 グループBは「死の組」である。4つあるグループの中で、上位進出のための戦いは最もし烈であろう。そんなグループで生き残るには、負けないだけでは不十分である。どの試合でも勝利を求めなければならない。ドイツ戦でポルトガルに欠けていたのは、あくまでも勝利にこだわる姿勢であった。

 初戦を落としたポルトガルは次の第2戦で、2010年W杯・南アフリカ大会の欧州予選でも、今回のユーロ予選でも、ポルトガルをプレーオフへと追いやったデンマークを相手に何が何でも勝利する必要に迫られた。しかも、デンマーク戦の後には、やはり初戦を落としたオランダとの戦いが控えている。まさにがけっぷちである。

 試合後のC・ロナウドは、「2004年大会でもポルトガルは初戦を落とし、そのあと盛り返して決勝まで勝ち上がった」と強気なところを見せてはいるが、祖国を遠く離れた国での大会で、地元開催の時と同じことができるだろうか。救いはそのC・ロナウドの調子が決して悪いわけではないこと。だが、もし選手たちが必要以上に戦術に縛られ、いつものポルトガルらしい大胆さを欠いたままプレーするならば、ポルトガル代表の前に一気に立ち込め始めた暗雲を消し去ることはできないだろう。

<了>

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著者プロフィール

1961年、埼玉県生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科教授。『ダイヤモンド・サッカー』によって洗礼を受けた後、留学先で出会った、美しいけれど、どこか悲しいポルトガル・サッカーの虜となる。好きなチームはベンフィカ・リスボン、リバプール、浦和レッズなど。なぜか赤いユニホームを着るクラブが多い。サッカー関連の代表著書に『ポルトガル・サッカー物語』(社会評論社)。『砂糖をまぶしたパス ポルトガル語のフットボール』。『ポルトガル語のしくみ』(同)。近著に『ポルトガル 革命のコントラスト カーネーションとサラザール』(ぎょうせい)

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