セリエAを彩った去りゆく名手たち=伝統の系譜は受け継がれるのか
決して数字では表し得ない選手
C・ロナウド(白)と競り合うガットゥーゾ。相手エースをつぶす激しい守備で世界の頂点に登りつめた 【Getty Images】
と、いうわけで、まず冒頭に挙げるのはこの男。ジェンナーロ・ガットゥーゾ。
その功績と力のほどは決して数字では表し得ない選手である。あえて昨今の風潮に倣ってデータなるものを調べてみても、パスの成功率にしろシュートの精度にしろ何にしろ実際には数値として、“これ”といったものは出てこない。仮にあったとしてもそれは極めて低調でしかないとのいう証だろう。つまり端的に言えば、技術は超の付く二流。だが、その事実を誰よりも自らが知る男は、周知の通り守備的MFとして黙々と走り続けた――事実、出てくるデータはその驚異的な走力のみ。これを公式戦出場試合(627)で概算すれば、95年にプロとなって以降の走行距離通算はおよそ8000キロ超――。それだけでなく、敵のFWとか10番といった華やかな選手をつぶすことだけに魂をささげてきた。本人いわく、「何のことはない、それがこのおれの生業(なりわい)だったからさ」。
そして、単につぶすだけでなくモロに敵のエースたちの足首を狙い続けては遂に世界の頂点にまでたどり着いてみせた。以前、「何でそこまで守備がうまいんですか?」と、かなりヨイショしながら尋ねたことがあるが、それに対する答えがまた実にこの男らしく単純かつ明快だった。
「ガキのころから鬼ごっこでおれから逃げられるヤツはいなくてな、まぁこれもひとつの才能だってことに気付いたわけ。だから、いつのまにか自然とサッカーでも追い掛け回す役をやるようになったんだよ」
その激しいタックルを、敵味方を問わず同僚たちは恐れ、畏怖(いふ)し、だが余りに愛嬌(あいきょう)のあり過ぎるキャラだからこそ決して誰にも憎まれることなく、むしろこの男に接したすべての者たちが心酔し、それは老いも若きも問わずファンもまた同様、結果としてこれほど広く愛された選手はほかにいないとまで言われている。
そんな“男・ガットゥーゾ”を象徴するのは、やはり06年ワールドカップ(W杯)・ドイツ大会優勝直後のテレビインタビューなのだろうか。完全に酔っぱらってはバリバリのカラーブリア地方(イタリア南部)方言で歯に衣など一切着せず、もちろんその姿はパンツ一枚で右手にはビール瓶で、お約束通り放送禁止用語を連発しながら世界制覇の歓喜を全国民に語り尽くしたあの姿。それはもはや伝説と化している。お子様用の技術教本や解説DVDなどには絶対に呼ばれない選手としても、世の大人たちにとってはこれ以上なき酒の肴(さかな)たるジョカトーレだった。
イタリアでしか生まれてこないストライカー
鋭いきゅう覚で何度もネットを揺らしてきたインザーギ(赤)。まさしくゴールを奪うために生まれてきたような選手だった 【Getty Images】
味方がゴールしても、一応は歓喜の輪に加わるもののうれしそうな顔はしていない。大切なのは自分が主役になることであり、そのためだけにピッチに立ち、相手DFを欺き、裏を狙い続けたFW。敵のエリア内でDF複数(主としてセンターバック2枚)の間をすり抜ける動きを連続させては一瞬にして抜け出し、クロスにピンポイントで合わせる技はまさに超一流。この“8の字の動き”は、とりわけ2000年代初期に国内のユース現場で“手本”として最も多く語られていたものだ。究極の点取り屋は、欧州カップ戦通算ゴール歴代1位の座を懸けた長き戦いで、遂にラウル・ゴンサレスに敗れて最前線から去る(ラウル77、インザーギ70)。
この先、ピンポイントのパスがゴール前に入るもそれに飛び込むFWがわずか数センチ届かず……という場面を見るとき、きっと多くのファンが「これ、インザーギなら間違いなく決めていたね」と、(現時点ではまだ来季も現役続行の可能性は残るのだが)この今季を最後に去るであろうFWを懐かしく思うに違いない。